産業廃棄物処理業、脱炭素への挑戦!神奈川・京都の最新調査から見る連携と課題
- 坂本裕尚
- 4月9日
- 読了時間: 4分
今回は、先日公開された「令和6年度 産業廃棄物処理における脱炭素に向けた取組調査報告書(神奈川県・京都府)」を基に、産業廃棄物処理業界の脱炭素化に向けた最新の動向と、その道のりにある課題、そして連携の可能性について、少し深掘りしてお伝えしたいと思います。

この調査は、全国産業資源循環連合会が神奈川県と京都府の産業資源循環協会と協力して実施。産業廃棄物処理業者と、そのパートナーである排出事業者の双方にアンケートやヒアリングを行い、脱炭素への取り組みの実情を探っています。
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脱炭素への意識の高まりと、規模による取り組みの差
調査報告書によると、排出事業者の中には、サプライチェーン全体での脱炭素化の流れを受け、温室効果ガスの削減目標を設定・公表したり、具体的な対策を検討したりする動きが着実に広がっています。当然、その目は産業廃棄物処理業者にも向けられており、より積極的な取り組みが期待されています。
一方、産業廃棄物処理業者を見てみると、約4割が何らかの温室効果ガス対策に取り組んでいるものの、具体的な削減目標を設定している事業者はまだ少数派です。
しかし、決して無関心というわけではありません。多くの事業者が、日々の業務におけるエコドライブの励行や、収集運搬ルートの効率化、そして廃棄物の3R(リデュース・リユース・リサイクル)推進といった、身近なところから脱炭素化に向けた一歩を踏み出しています。また、中間処理施設においては、廃棄物由来のエネルギー製品製造や、再生可能エネルギーの導入といった先進的な取り組みも一部で見られるようになってきました。
中小企業が抱える構造的な課題
では、なぜ脱炭素への取り組みが一部に留まっているのでしょうか? 報告書では、その背景にある大きな要因として、産業廃棄物処理業者の多くが中小企業であるという実態を指摘しています。
なんと、今回の調査に回答した処理業者の8割以上が資本金5,000万円未満、7割以上が従業員数29人以下という状況です。
この規模感からくる人材不足や資金的な制約が、脱炭素化を進める上での重い足かせとなっていることは想像に難くありません。実際、処理業者からは、脱炭素化を進めるための行政による補助金や税制上の優遇措置といった具体的な支援を求める声が多数寄せられています。
さらに、既に脱炭素化に取り組んでいる事業者からは、行政への報告手続きの煩雑さに対する改善要望も多く聞かれました。人手が限られた中小企業にとって、複雑で時間のかかる報告業務は、更なる負担となり、脱炭素化への意欲を削ぐ要因になりかねません。
排出事業者との連携に見出す活路
しかし、今回の調査結果は、暗い側面ばかりではありません。排出事業者と処理業者の間に、新たな連携の可能性が示唆されています。
排出事業者からは、処理業者の選定において「処理に係る排出原単位」を基準の一つとする提案や、「環境負荷の高い品目や処理方法についてのアドバイス」を求める声が上がっています。これは、排出事業者が自社のサプライチェーン全体での脱炭素化を進める上で、処理業者の専門知識やデータに期待している表れと言えるでしょう。
一方、処理業者からは、排出事業者に対して「廃棄物処理と再資源化のプロとしての専門知識を活かした問題解決への協力」や、「廃棄物の回収から再資源化、製品化までを一貫して行うリサイクルのトータルコーディネートサービス」の提供といった提案がされています。
このように、両者がそれぞれの強みを活かし、積極的に対話を進めることで、例えば最適な分別による高効率なリサイクルの実現といった、双方にとってメリットのある関係を築きながら、一体的な脱炭素化を推進できる可能性が見えてきました。
まとめと今後の展望
今回の調査報告書からは、産業廃棄物処理業界における脱炭素化への意識は着実に高まっているものの、中小企業が中心であるという構造的な課題、そしてそれを乗り越えるための行政支援の必要性、煩雑な手続きの改善といった課題が明確になりました。
しかし、同時に、排出事業者との連携を強化することで、新たな脱炭素化の道が開ける兆しも見えています。今後は、行政による中小企業へのより具体的な支援策の実施と、排出事業者と処理業者間のより緊密な連携が、産業廃棄物処理業界全体の脱炭素化を加速させるための重要な鍵となるでしょう。