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太陽光パネルリサイクルの現状 〜 ガラスの出口問題とコストの壁 〜

2030年代から、使用済み太陽光パネルの廃棄量が急増し、最大で年間50万トンに達すると予測されています。

これは2012年に導入された FIT制度(固定価格買取制度)により太陽光発電が急速に普及したことに伴う未来の課題です。



太陽光パネルリサイクルの現状


この大量廃棄時代を前に、現在、全国のリサイクル業者が切断、破砕、ブラスト工法、熱処理、シュレッダー選別など、様々なリサイクル設備を導入し、取り組みを進めています。

JWセンターが実施した全国のリサイクル事業者へのヒアリング調査報告書(2025年9月まとめ)に基づき、太陽光パネルリサイクル事業の現状と、大量廃棄時代を迎えるにあたって直面する重要な課題について、現場の声も交えながら「太陽光パネルリサイクルの現状」を解説いたします。


■ JWセンター 調査部(使用済み太陽光パネルのリサイクルに関する取組状況調査)2025年9月


太陽光パネルリサイクルの課題



1.誰が、廃太陽光パネルを排出しているのか?


太陽光パネルの排出元と「早期離脱」の真実


現在リサイクル業者に搬入されているパネルの多くは、実は発電寿命を迎える前に廃棄されるケース、いわゆる「早期離脱」が目立っています。


主な排出事業者は、建設業関係(建設業者、解体業者、リフォーム会社)や、発電事業関係(発電事業者、PPA事業者、保守点検業者、設置者)です。


廃棄理由としては、工場や住宅の屋根の解体・葺き替え工事に伴う撤去のほか、台風などの災害やカラスの石落としによる故障、または不良品などがあります。


調査対象となったリサイクル業者(C社)の報告によると、本来の寿命を全うしたパネルが運び込まれるのは、全体のわずか1割程度にとどまっています。裏を返せば、廃棄されるパネルのかなりの部分がまだ発電できる可能性がある、資源として有効活用すべき「もったいない」状況とも言えます。



回収量の現状


パネルの受入量は全体として増加傾向にあり、中には前年比で処理枚数が倍増した事業者(D社など)も確認されています。特に近畿地方などでは、排出事業者のリサイクルへの意識が向上しているという肌感覚を持つ業者もいます。


しかし、多くのリサイクル業者(A社、C社など)からは、「パネルの回収量はまだ少なく、事業として成り立たせるには不十分な状況」だという本音が聞かれています。



リユースの取り組みの難しさ


まだ使えるパネルが多いにもかかわらず、リユースは簡単ではありません。

今回の調査対象7施設のうち、独自基準で合格したパネルを自社消費や発電所への張り替え用途で販売するなど、積極的にリユース品を取り扱っていたのはC社一社のみでした。


他の業者は、中古品の性能保証の問題や、在庫を抱えるリスク、そして何よりも安価な中国製新品パネルが市場に大量に出回っているため、中古品では値段で勝負できないという厳しい競争環境を理由に、リユース事業を行っていないケースが多く見られました。




2.再資源化で得られるものと、立ちはだかる「ガラス」の壁


リサイクルにより、パネルからは主に金属(アルミ枠、銅など)とガラスが回収されています。

金属類、特にアルミ枠や銅は、素材メーカーや精錬会社に有価物として売却されます。

一方、ガラスは、路盤材や防草材、板ガラスの原料として売却されるほか、回収したガラスを使って自社で発泡ガラスなどの二次製品を製造・販売し、付加価値を高めようとする取り組みも見られます(D社、F社など)。


立ちはだかるガラスの壁
立ちはだかるガラスの壁


リサイクル事業の収益性とガラスの課題


リサイクル事業の最大の課題の一つは、パネルの重さの大部分(約7~8割)を占めるガラスの再資源化物の利用促進における難しさです。


  1. コスト増と需要の限定

    • ガラスを板ガラスなど元のガラス製品へ戻すマテリアルリサイクルは、高い品質が求められる上、洗浄やコストがかかるため、再算が合わず現状あまり進んでいません

    • 現状のガラスの用途では売却価格が安価であり、手間をかけてリサイクルを進めても相応の利益が得にくい構造的な問題があります。

    • リサイクル料金が埋立処分(最終処分)よりも高価となるため、排出事業者が安価な埋立処分を選ぶ傾向にあります。

  2. 品質要求と成分不明確性

    • 大量廃棄時代が到来し、回収量が増加した場合、現在の売却先からの受入制限を受ける可能性があり、リサイクルの行き先がなくなることが危惧されています。

    • ガラスメーカーからは、パネル由来のガラスに対して極めて高い品質要求(含有物質情報の提示、不純物の除去)があります。しかし、多くのパネルは海外製で、廃棄される頃にはメーカーが廃業している可能性が高く、組成情報(アンチモン、ヒ素、セレンなど)が不明確なため、リサイクル用途の拡大にはガラスの成分分析が必要ですが、費用がかかります。

  3. その他の技術的・経済的課題

    • 近年廃棄されるパネルは、製造技術の進歩に伴い、バックシートに含まれる銀の含有量が減少しており、バックシートの売却価格が下落しています。

    • パネルに使用されているシリコンは純度が足りず、現在の技術では、太陽電池グレードの純度に戻すリサイクルはコスト的に成り立たないのが共通認識です。




3.大量廃棄時代に向けた取り組みと規制・ルール作りの要望


パネルの大量廃棄時代に備え、リサイクル業者はすでに様々な対策を講じ始めています。


ルール作りの議論


リサイクル業者の具体的な取り組み


  • 広域的な収集体制の整備 パネルは運搬効率が悪いため、グループ内の運送会社と連携したり、トラック輸送から鉄道や船に変えるモーダルシフトを検討したりして、遠方からの収集コスト低減を目指しています(A社、B社)。また、同業他社との連携も模索されています(D社)。

  • リサイクル設備の増設 受入量の増加に対応するため、現在の設備の増強や能力アップを計画・実施したり、現在地以外の地域に施設を設置する計画を視野に入れたりしています(B社)。

  • 情報管理の徹底 海外製パネルの組成情報不足という課題に対し、排出事業者にWDS(廃棄物データシート)やSDSの提出を求めたり、機種ごとの含有物質情報を自社でデータベース化して蓄積したりする取り組みが進められています(A社、D社など)。


業界が求める制度設計・規制緩和


リサイクル業者からは、リサイクル事業を促進するために、国や行政に対し、規制やルール作りに関する強い要望が寄せられています。

  1. リサイクル料金の明確化とインセンティブ設計

    • リサイクル費用(受入単価)の設定根拠が曖昧であり、制度化する際には、根拠のしっかりとした費用を示す必要があります。

    • 高度処理(リサイクル)は単純な埋立処分よりも費用が高くなるため、排出事業者が高度処理を選ぶような制度設計にし、リサイクルが促進されるように誘導することが求められています。

  2. リサイクルの定義と指標

    • 「リサイクルの定義」を明確にすべきです。アルミ枠だけを外して資源化し、残りのガラスやバックシートを破砕・埋立しても「リサイクル」と言えてしまう現状では、資源循環は促進されないとの懸念があります(D社)。

    • リサイクル率など、分かりやすい指標の提示も求められています。

  3. 回収の仕組み整備

    • パネルは運搬効率が悪く、大量廃棄を迎えた際に、現行の産業廃棄物収集運搬業者だけでは回収が難しいと予想されています。家電リサイクル法のような、広域的なパネル回収の仕組みの整備が不可欠です。




まとめ


太陽光パネルのリサイクル事業は、来る大量廃棄時代に向けて徐々に体制を強化していますが、現状は回収量が少なく、特にガラスを中心とした再資源化物の用途開発・拡大と、埋立処分とのコスト競争力の確保が最大の課題となっています。


リサイクル業者からは、埋立処分よりもリサイクルが選択されるような法制度の明確化や、適切なタイミングで設備投資を行うための廃棄量や処理方法の実態把握を可能にする仕組みが強く求められています。


リサイクル技術の高度化については、まもなく完全施行される再資源化事業等高度化法が後押ししてくれるでしょう。

ですが、それだけでは十分ではありません。

サプライチェーンのメーカー、私たち消費者、そしてルールを作る行政がそれぞれの立場で責任を果たし、連携していくこと、これが重要であると考えます。


官民連携した循環型社会作りをこの太陽光パネルリサイクルでも始められたらと考えています。


坂本裕尚

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