リチウムイオン電池のリサイクルへの課題
- 坂本裕尚
- 10月20日
- 読了時間: 5分
家庭から排出されたリチウムイオン電池(LiB)がリサイクル(再資源化)されない主な理由には、「不適切な排出による火災リスク」と「回収・処理ルートの構造的な問題」の二つが挙げられます。(リチウムイオン電池のリサイクルへの課題)

1.深刻化する火災リスクと不適切な排出
LiBが不燃ごみや可燃ごみに混入し、収集車や処理施設で発火する事故が全国で急増しています。
総務省の調査では、LiBに起因する火災事故等の発生件数は、令和元年度から令和5年度にかけて倍増しています。
■総務省(リチウムイオン電池等の回収・再資源化に関する調査)
火災の原因の多くは、不燃ごみなどとして他のごみと混ぜて排出され、収集車で圧縮されたり、処理施設で破砕されたりする過程で電池が損傷し、発火することにあります。
一度火災が発生すれば、処理施設の復旧に11億円あるいは55億円もの費用がかかる事例も報告されており、私たちの生活基盤を揺るがしかねない深刻な事態です。
この結果、市区町村で回収されたLiBのうち、再資源化が想定されない可燃ごみ、プラスチックごみ、不燃ごみといった区分に排出されている量が、LiBの重量に換算して約4割から5割程度(37.0%~53.6%)に上ると試算されています。
2.処理現場が直面する構造的な課題
LiBの回収・処理には、資源有効利用促進法に基づき、製造事業者等に自主回収・再資源化の責務が課せられています。しかし、現場ではその仕組みが十分に機能していません。
メーカー責任の限界(JBRCの制約)
製造事業者等が共同で設立した回収団体であるJBRCは、リサイクルルートの柱ですが、回収対象が厳しく限定されています。 具体的には、JBRC非会員メーカーの製品や、破損・膨張した電池、そしてコードレス掃除機や電気かみそりなどに組み込まれたままの電池(一体型製品)は、原則として回収対象外です。
「出口」のない自治体の苦悩
JBRCが受け入れない、特に発火リスクの高い破損・膨張品や一体型製品について、市区町村は処分先に苦慮しています。 調査に回答した自治体の約半数(46.0%)が、LiBを埋立て・焼却・ストックのいずれかの処分方法をとっており、その主な理由として「適切な処分事業者が見当たらない」ことが挙がっています。
不適切な保管の発生
処分先が見つからないため、回収したLiBを数年間にわたりドラム缶などで一時的にストックしている事例も確認されており、火災リスクや現場職員の精神的負担が増大しています。
課題を乗り越えるための「今後の展望」と取り組み
LiBが資源として循環し、安全に処理される社会を実現するため、制度的な改革と現場の工夫が進められています。
1.規制の強化とメーカー責任の明確化
製造事業者に対する資源法に基づく責務の履行状況は、易解体設計やリサイクルマークの表示においても十分ではない実態が組成分析調査で判明しています。
この状況に対し、国レベルで制度の動きが加速しています。2026年4月に施行される改正資源法では、製造事業者等の責務が強化され、これまで処分の難しかった電池が容易に取り外せない一部の一体型製品なども回収対象品目に追加される見込みです。
これにより、製造事業者等に対し、自主回収や再資源化の仕組み構築が求められ、回収率の向上と自治体の負担軽減が期待されます。
2.自治体による効果的な回収施策の導入
自治体の努力も実を結び始めています。LiBの混入抑制に最も効果的とされる方法の一つが、「危険ごみ」などの分別区分を設けた定日回収(ステーション・戸別回収)です。
定日回収を導入した自治体の中には、実際に他のごみへの混入が減り、火災件数が大幅に減少した事例が報告されています(年間400件以上の火災案件が100件余りに減少)。
定日回収は、LiBを含む製品全体の混入量の約1割程度の抑制効果が示唆されています。
環境省も、市区町村に対しLiBを一つの分別収集区分として設定し、住民の利便性が高い分別収集(定日回収)を行うよう技術的助言(システム指針の改訂)を行っています。
3.処理インフラの整備と情報共有
LiB回収の最大のネックである「適切な処分事業者が見つからない」という問題解消に向けた取り組みも進んでいます。
広域処理の推進
2024年5月に公布された再資源化事業等高度化法により、国の一括認定を受けた事業者が自治体の区域をまたいで広域的な再資源化(廃掃法の特例)を行うことが可能になりました。 これにより、処分事業者の確保が容易になることが期待されます。
情報提供と連携
環境省は、市区町村に対してLiBを再資源化できる処分事業者(リサイクラーリスト)の情報提供や、安全な保管方法、破損・膨張品の適切な処分事例に関する情報収集・提供を進める方針です。
また、自治体が抱える財政負担や安全面での課題解消策を整理し、技術的助言を行うことの必要性も指摘されています。
まとめ(リチウムイオン電池のリサイクルへの課題)
家庭ごみとして排出されたLiBの約半数が再資源化されずに終わってしまう現状は、火災事故という喫緊の安全保障上のリスクと、貴重な資源の浪費という二つの大きな課題を浮き彫りにしています。
安全性を確保し、資源を無駄にしないリサイクルシステムを構築するには、製造事業者による易解体設計や自主回収の強化、自治体による定日回収と適切な分別システムの普及、そして処理事業者の育成・拡大が不可欠です。
私たち住民一人ひとりが、お住まいの自治体のルールをしっかりと確認し、可燃ごみや不燃ごみにLiBを混ぜて捨てないことが、この問題解決への第一歩となります。
坂本裕尚



