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資源有効利用促進法改正で何が変わる?① ~ 産業界の本音編 ~

更新日:9月7日

2026年4月に施行が予定されている資源有効利用促進法改正は、日本の資源循環を大きく加速させるきっかけになる可能性があります。


今回は、2025年8月に経済産業省から示された方針や、自動車、家電、容器包装といった主要業界へのヒアリング結果を基に、この新しい法律が私たちの生活や産業界にどのような影響を与えるのか、その本音を少しご紹介します。


■経済産業省(第12回 産業構造審議会 イノベーション・環境分科会 資源循環経済小委員会)



再生樹脂と、LiBのリサイクル
再生樹脂と、LiBのリサイクル


1.「プラスチック」:脱炭素化と資源確保の切り札


資源有効利用促進法改正の大きな柱の一つが、プラスチックのリサイクルの促進です。

特に「脱炭素化再生資源」として、再生プラスチックの利用拡大が強く推進されます。

これは、

  • 天然資源に比べてCO2排出量を大幅に削減できること、

  • そして輸入依存度が高い石油を原料とするプラスチックの安定供給を確保する、

という2つの側面から非常に重要視されています。


廃プラのリサイクルイメージ画像
廃プラのリサイクルイメージ画像

新たに指定される3つの製品カテゴリー


再生プラスチックの利用拡大を主導する業界として、以下の3つの製品カテゴリーが「指定脱炭素化再生資源利用促進製品」に指定されました。


  • 自動車

  • 家電4品目(ユニット形エアコンディショナ、テレビ受像機、電気冷蔵庫、電気洗濯機)

  • プラスチック製容器包装(ただし、飲料用PETボトル、食品・医薬品に直接触れるものは当面対象外)


なぜこれらの製品となったのでしょうか?


じつは、日本では年間約800~900万トンもの廃プラスチックが発生しているにもかかわらず、再びプラスチック製品として国内で利用されているのは、わずか5%程度に過ぎません。


技術的・経済的にはリサイクル可能であるものの、安定した量と質の再生材を確保するのが難しいという課題があったため、国として政策的な措置が必要と判断されたのです。


特に、自動車や家電のようにプラスチックを大量に使う分野をターゲットにすることで、国内での再生プラスチックの供給基盤そのものを確立していくそうです。



産業界のリアルな声(プラスチック)


では、この指定を受けた各業界は、現状と課題をどのように捉えているのでしょうか?



自動車業界


意欲的な目標:

日本自動車工業会(自工会)は、2035年までにサステナブルプラスチック活用率15%以上という目標を掲げています。


深刻な供給不足の懸念:

しかし、2045年には必要な再生プラスチックが約30万トンも不足する可能性があると試算されており、目標達成への大きな壁となっています。


供給側の課題:

「需要側(メーカー)に利用目標を課すだけでは不十分で、供給側(リサイクル事業者)が直面する量、質、コストの問題を解決しない限り、効果は限定的ではないか」という懸念が示されています。


グローバルな整合性:

部品調達がグローバルなサプライチェーンを持つため、EUなどの海外規制との整合性や、再生材(PCR材、PIR材など)の定義の国際的な統一が強く求められています。


報告開始時期の要望:

自動車部品の開発には10年を要するものもあるため、定期報告の開始時期を2031年以降に後ろ倒ししてほしいという具体的な要望も出ています。



電気電子機器業界


既存のリサイクル体制:

家電リサイクル法に基づき、家電4品目の回収ルートやリサイクル技術は確立されています。


水平リサイクルと未利用プラスチック:

現在、回収された廃プラスチックのうち、再び家電製品に利用される「水平リサイクル」は年間約1.5万トンですが、年間約12.5万トンものプラスチックが、色などの問題で家電製品に戻せず未利用となっています。


新たな活用模索:

この未利用プラスチックを他の用途に使う「家電 to X」や、他の分野の廃プラスチックを家電に使う「X to 家電」といった、幅広い活用方法が検討されています。


要望:

環境配慮設計へのインセンティブ制度、リサイクル設備への補助支援、再生プラスチック利用製品に対する消費者の受容性啓発、再生プラスチックの品質・信頼性を高めるための認定制度の整備などが要望されています。



容器包装業界


回収体制の課題:

容器包装リサイクル法に基づき自治体による回収体制は整備されていますが、様々な種類のプラスチックが混在して回収されるため、質の高い再生材を効率的に得るのが難しいという課題があります。技術的には可能でも、経済合理性や大量処理の点でハードルが存在します。


意欲的な目標:

CLOMA(クリーン・オーシャン・マテリアル・アライアンス)では、2030年までに再生材利用率30%という目標を掲げています。


要望:

目標達成に向けて「頑張っている人が報われる制度」となるようなインセンティブ設計が不可欠とされています。また、食品に直接触れる容器包装は高い衛生基準が求められるため、安全性確保が大前提です。再生材のコスト増を消費者が理解し、価格に転嫁できる環境づくりも重要だと指摘されています。


プラスチック分野の共通課題と今後の展望:

各業界固有の事情はあれど、共通の課題も見えてきます。

  • 再生材の品質・量・コストの安定化

  • 効率的な回収・選別技術の確立

  • 需要側(メーカー)と供給側(リサイクル業者)のマッチング強化

  • 消費者への啓発と再生材製品の受容性の向上


今回の指定はあくまで「スタート地点」であり、法律施行後5年以内に、プラスチック以外の資源の対象化や、食品容器包装の議論、より幅広い事業者を対象とするための基準値の見直しなどが検討される予定です。




2.「リチウムイオン電池」:安全確保と希少資源の有効活用


法律のもう一つの柱は、リサイクルが難しい、あるいは取り扱いに注意が必要な製品への対策です。

特に、発火リスクや貴重な資源(レアメタル)の観点から、リチウムイオン電池(LiB)を内蔵した製品がターゲットになっています。


LiB発火でのごみ収集車の火災イメージ
LiB発火でのごみ収集車の火災イメージ

新たに指定される3つの製品カテゴリー


リサイクル現場での発煙・発火リスク低減と、レアメタルを含む小型リチウム蓄電池の回収量拡大のため、以下の3つの製品が「指定再資源化製品」に追加されます。


  • モバイルバッテリー

  • スマートフォン

  • 加熱式たばこ


なぜこれらの製品となったのでしょうか?


主な理由は2つです。


1. 安全性

これらの製品が一般ごみなどに混入すると、収集車内や処理施設で発火・爆発事故が多発しています。これを防ぐことが最重要課題です。


2. 資源の有効利用

リチウムイオン電池にはコバルトやニッケルといったレアメタルが含まれており、これらを回収し再利用することが国の狙いです。


特に、消費者が自分で電池を取り外せない一体型製品が増えているため、製品ごと回収する仕組みの強化が必要とされています。



産業界のリアルな声(リチウムイオン電池)


では、この指定を受けた各業界は、現状と課題をどのように捉えているのでしょうか?



モバイルバッテリー


回収体制の整備:

一般社団法人JBRCが自主回収ルートを整備しており、回収量は2017年比で約30倍に増加しています。


課題:

回収対象がJBRC会員企業の製品に限られ、非会員製品や、膨張・変形した危険なバッテリーは現状、安全上の理由から回収対象外となっています。安全な回収方法の模索と、使用者への「使い切ってから排出する」周知徹底が課題です。



スマートフォン


回収体制の整備:

モバイル・リサイクル・ネットワーク(MRN)が全国約8,500店舗で自主回収を実施し、22年間で約1億5,000万台の端末を回収してきました。


課題:

近年、スマートフォンの高性能化による長期利用や中古市場の拡大などにより、リサイクル目的の回収率は9.4%と低下傾向にあります。また、防水性や非純正バッテリー利用による事故を防ぐ安全性の観点から、ユーザーが容易に分解できない設計になっているのが実情です。



加熱式たばこ


回収体制の整備:

主要メーカー3社による自主回収・リサイクル事業が展開されていますが、たばこ販売店など回収拠点が限られている課題があります。


課題:

非純正品の利用による事故を防ぐため、ユーザーが簡単に分解できない設計となっています。業界全体での回収体制強化、自治体との連携、また国際的な統一マークがない現状での日本独自のマーク表示の難しさなどが指摘されています。


指定されなかった製品と今後の展望:

今回の指定から外れた製品にも注目です。

  • 電気掃除機・電気かみそり これらの製品は、消費者が比較的安全に電池を取り外せるような「易解体性設計」が進められているため、まずは自主的な取り組みの状況を継続的に見ていく方針です。

  • その他のリチウムイオン電池使用製品 ハンディファンなど、火災リスクの高い他のリチウムイオン電池使用製品についても、火災事故の発生状況などを踏まえて、今後指定が検討される可能性があります。



産業界からは、より安全性の高い電池自体の開発、廃棄時に放電の確認ができる仕組みの開発、そして製品にリチウムイオン電池が使われていることを分かりやすく示す統一的な表示(例:飛行機の機内持ち込みルールでも使われるワット時定格量Wh表示)が求められています。


将来的には、EUの電池規則のような、より包括的で義務的な回収・リサイクル制度の導入も視野に入ってくるかもしれません。




3. まとめ ~ 私たちの意識と「モノ」の未来 ~


資源有効利用促進法改正の意味


この資源有効利用促進法改正は、大きく2つの方向性を持っています。

(正直、ここまで資源有効利用促進法が表に立つような法律になるとは思っていませんでした😅)


  • 一つは、再生プラスチック利用を促す製品指定(自動車、家電、容器包装)

  • もう一つは、リチウムイオン電池内蔵製品の安全かつ確実な回収・リサイクル促進(モバイルバッテリー、スマホ、加熱式たばこ


私たち消費者にとっては、これから使う製品のデザインがリサイクルしやすいように変わったり、捨て方が変わったり、もしかしたらリサイクルのコストが製品価格に反映されたりする可能性もあります。

いずれにしても、限りある資源を有効に使うことへの意識が、ますます高まっていくことになるでしょう。


最後に、今回のヒアリングでは、グローバルなサプライチェーンの複雑さや国際的なルールとの整合性という課題が強く浮かび上がってきました。


日本が国内の資源循環システムを強化しようとする中で、こうしたグローバルなビジネスの現実とどう向き合い、当初の目的である国内産業の育成や脱炭素化を損なわずに、いかに実効性のある仕組みを築いていけるのか。


国内での最適化とグローバルな標準・競争とのバランスは、今後の大きな課題であり、注意深く見ていく必要があります。


私たちの「モノ」の未来は、まさに今、大きな転換点にあります。この法改正の動向に、これからも注目していきたいとおもいます。



坂本裕尚

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