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【地熱発電の初のロードマップ】日本の地熱ポテンシャルを4倍以上に引き出す「次世代型地熱」

先日、資源エネルギー庁より「次世代型地熱推進官民協議会 中間取りまとめ」(2025.10.31)が公表されました。



これは、火山国である日本に眠る膨大な地熱エネルギーの潜在能力を飛躍的に引き出し、日本のエネルギー自立と2050年カーボンニュートラル達成に貢献するための、壮大なロードマップです。(地熱発電の初のロードマップ)


この次世代技術が実現すれば、地熱ポテンシャルは現在の 4倍以上に拡大する可能性があります。


このブログでは、

  • この「次世代型地熱」とは何か、

  • どれほどのポテンシャルを秘めているのか、

  • そしてその実現に向けた具体的な計画 について深掘りします。


地熱発電のイメージイラスト
地熱発電のイメージイラスト

1. なぜ「次世代型」が必要なのか? 従来型地熱の限界


地熱発電は国産で安定したベースロード電源として魅力的ですが、従来型(熱・水・割れ目から成る貯留層を利用する方式)には構造的な限界がありました。


  1. 場所の制約と規制

    従来の地熱資源は火山活動が活発な山間地域に偏在しており、その多くが国立・国定公園や保安林などの区域と重なります。例えば、国有林では開発面積が原則5ヘクタール(50,000 m²)まで、保安林では変更区域面積が0.2ヘクタール(2,000 m²)までと厳しく制限されており、大規模開発が困難でした。

  2. 規模の限界 天然の貯留層に頼るため、1坑井あたりの出力が限定的で、一般的に3,000kWから10,000kW程度とされています。

  3. コスト高 従来型地熱発電の発電コストは、依然として不確実性が大きく高水準にあり、13.8円/kWhから36.8円/kWhの幅で試算されています(資本費+運転維持費。割引率考慮せず)。


これらの課題を抜本的に解決し、地熱発電を「競争力のある電源」にするため、第7次エネルギー基本計画に基づき、次世代型技術の開発と早期実証を目指すこととなりました。




2. 次世代型地熱の3つの柱とその革新性


次世代型地熱技術は、既存の熱水・蒸気資源の有無や場所の制約を克服し、日本の巨大な地熱ポテンシャルを解放します。


技術名称

概要と深度

革新性(期待される課題解決)

超臨界地熱 (Supercritical Geothermal)

3~6kmの深部にある、マグマ上部の超高温(400~600℃)・超高圧の流体を利用して発電します。

抜本的な出力増大 1本あたり15,000~50,000kW/本の生産能力が期待され、従来型の数倍〜10数倍の出力を実現。NEDO調査では、条件が良ければ1地域で10万~20万kW規模の発電所建設も示唆されています。

クローズドループ (Closed-loop)

亀裂のない高温の地層に坑井で閉じた回路(ループ)を構築し、流体を循環させて熱を回収します。深度目安は1.5~2km、200~350℃。

開発地域の拡大 熱水や蒸気がない地域でも、熱さえあれば開発可能。温泉地との競合リスクが低く、需要地近傍での開発も視野に入ります。

EGS (Enhanced Geothermal Systems)

天然の割れ目(フラクチャー)が少ない高温岩体に対し、人工的に貯留層(割れ目)を造成(増産)し、水を注入して熱水・蒸気を取り出し発電します。深度目安は1.5~2km、200~350℃。

自然資源に依存しない 高温岩体さえあれば開発可能となり、従来の地熱資源に依存しない熱回収手法を確立します。



これらの技術により、ポテンシャルは合計77GW超に上ると見込まれており、従来型のポテンシャル(23.5GW)を大きく上回ります。内訳は、クローズドループ・EGSで66GW、超臨界地熱で11GW+αと推定されています。


さらにIEA(国際エネルギー機関)の評価では、日本のEGS技術ポテンシャルは深度8km未満で約2〜3TWe(テラワット、2,000〜3,000GWに相当)と、桁違いに大きな可能性も示唆されています。




3. 次世代型地熱実現に向けたロードマップと目標(地熱発電の初のロードマップ)


この巨大なポテンシャルを実現するため、ロードマップでは以下の導入目標が掲げられています。


中長期導入目標

  • 2040年までに: 約1.4GW の開発を目指す。

    (例として、超臨界地熱4地域で0.8GW、EGS/クローズドループ30地域で0.6GWの開発が試算されています。)

  • 2050年にかけて: 約7.7GW の開発を目指す。


※ この7.7GWは、次世代型地熱ポテンシャル(77GW超)のうち、経済性に優れる上位10%程度を開発した場合の仮置きの試算に基づいています。報告書では、この7.7GWを上限(キャップ)と捉えることなく、更なる高みを目指すとしています。



3つの開発フェーズ


ロードマップは、技術革新と投資促進を前提に、以下の3つのフェーズで進められます。

  1. フェーズ1(~2030年) 国内先行導入に向けた掘削技術など各種技術開発及び技術の先行導入を目指します。

    目標は、技術面・商務面の不確実性を低減し、「資源化」に資する技術実証を達成することです。

  2. フェーズ2(2030年代早期) 発電設備の運転開始を目指します。

  3. フェーズ3(2040年~) 国内普及とそれによる地熱発電の抜本的な導入量拡大を目指します。



2030年に向けた具体的な先行導入目標(フェーズ1)

技術

2030年までの具体的な成果(資源化)

2030年以降の目標

超臨界地熱

調査井掘削と噴気試験等により、超臨界地熱の資源化を達成し、発電出力試算と事業性の試算ができていること。

全国で10~20万kW規模の発電所建設を目指す。

クローズドループ

実証井掘削、循環試験により計画相当の出力が得られ、熱回収システムが完成していること。

全国で2~5万kW規模の発電所建設を目指す。

EGS

生産試験井掘削や既存井改修等による人工貯留層造成等による増進手法の確立と、熱回収システムの完成

全国で2~5万kW規模の発電所建設を目指す。



4. ロードマップ実現のための課題と体制


ロードマップを「絵に描いた餅」で終わらせず実現するには、技術的な課題だけでなく、制度的な対応も不可欠です。


制度・規制の整理が鍵


超臨界地熱は大深度掘削や超高酸性熱水の産出の可能性があり、クローズドループやEGSは自然熱水に依らない地下熱源の活用を伴うため、従来型地熱とは異なる論点が生じます。

特に重要なのが、温泉地との調整や温泉資源との取扱いに関する温泉法上の掘削許可などの取扱いについて、環境省や関係省庁と議論・整理を進めることです。


官民一体での体制整備


政府は、資源量調査・情報提供の拡大、リスクの高い初期段階(フェーズ1)の技術開発・実証に対する支援強化、そして必要な環境整備(規制の見直し、手続きの迅速化)を担います。

このため、資源エネルギー庁のもとに、次世代型地熱の適切な活用に向けた技術的分析や制度整備の課題を議論するための新たな会議体(次世代型地熱資源の適切な活用に向けた検討会)の設置が検討されています。


技術成熟度(TRL)の向上


現在の次世代型技術の多くは、技術成熟度レベル(TRL)で2~5の段階(基礎研究・小型試作機による検証段階)にあると評価されています。

これを、実証プロジェクトを通じてTRL 6以上(実環境でのシステム実証可能レベル)まで引き上げ、早期の社会実装を目指します。




5. 経済効果と発電コスト目標


次世代型地熱の導入は、日本のエネルギー自給率向上に加え、経済と環境面にも大きなインパクトをもたらします。


発電コスト目標


次世代型地熱の発電コストは、早期に従来型地熱と同等(13.8~36.8円/kWh)を達成しつつ、将来的には他のベースロード電源(LNG火力、原子力等)と競争可能な水準、すなわち2025年時点の試算で12円/kWh~19円/kWhを目指します。


経済波及効果とCO2削減量


仮に2050年目標である7.7GWを開発し、その後10年間操業を続けた場合、

  • 経済波及効果: 建設および10年間の操業コストに伴う経済波及効果(生産誘発額ベース)は、約30兆円~約47兆円と試算されています。これは、関連機器の製造やメンテナンス、雇用創出など、裾野の広い効果を示すものです。

  • CO2削減量: 火力発電平均との比較で、年間約3,654万トン-CO2/年の削減が見込まれます。




まとめ:未来のゲームチェンジャー


超臨界、クローズドループ、EGSといった次世代技術は、日本の地下に眠る膨大なエネルギー資源を解放し、日本のエネルギー事情を根本から変える可能性を秘めています。ポテンシャルは絶大ですが、超高温高圧への挑戦、コストダウン、そして温泉法をはじめとする既存規制との調整など、乗り越えるべきハードルも決して低くありません。


このロードマップの成功には、報告書が強調するように、官民一体となった長期的な取り組みと粘り強い連携が不可欠です。今後の技術開発の進展と、社会実装に向けた動きに、引き続き注目が必要です。


坂本裕尚

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