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PFASを正しく理解し、科学的知見に基づいた賢い対応を 〜過度な不安を解消するために〜

近年、PFASという化学物質について、メディアでの報道が増え、健康への不安を感じている方も多いかもしれません。


PFASは「永遠の化学物質」と呼ばれることもあり、その難分解性ゆえに、過去に排出されたものが環境中に残存していることが確認されています。


こうした状況に対し、国や自治体は科学的知見に基づき、確実な対策を進めています。


このブログ記事では、PFASの基礎知識から、日本の専門機関による最新の健康影響評価、そして現在進行中の対策の現状について、過度な不安に惑わされないための正しい知識を整理します。


🔶情報源(環境省 PFASハンドブック(2025年3月))


PFASが含まれていそうなもの
PFASが含まれていそうなもの

1.PFASとは何か? その基礎知識


1.1 PFASの基本的な性質と種類


PFAS(ペルフルオロアルキル化合物及びポリフルオロアルキル化合物)とは、主に炭素とフッ素からなる化学物質の総称です。その種類は、分類の仕方によって異なりますが、1万種類以上あるとされています。


これらの物質の最大の特徴は、強く安定した炭素-フッ素結合を持っている点です。この強固な結合により、加水分解、光分解、微生物分解、代謝に対して耐性があり、自然界ではほとんど分解されない(難分解性)性質を持ちます。


この安定性から、撥水・撥油性、熱・化学的安定性に優れ、過去には幅広い用途で使用されてきました。



1.2 PFOSとPFOAが注目される理由


PFASの中でも特に問題視され、規制対象となっているのが、PFOSとPFOAです。


これらは過去に、泡消火薬剤、半導体用反射防止剤(PFOS)、フッ素ポリマー加工助剤(PFOA)など、多様な用途に使われてきました。


PFOSとPFOAが特に注目されるのは、その難分解性に加え、以下の性質を合わせ持つためです。

  1. 高蓄積性:生物の体内に蓄積しやすい

  2. 長距離移動性:環境中を高範囲に移動しやすい



1.3 国際的な規制と国内での対応


これらの懸念される性質から、国際的な規制が進められました。PFOSは2009年、PFOAは2019年に、残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約(POPs条約)の廃絶対象物質に追加されました。


これを受けて日本国内でも、「化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律」(化審法)に基づき、PFOSは2010年、PFOAは2021年に「第一種特定化学物質」に指定され、その製造・輸入が原則禁止されました。


現在、これらの物質が新たに国内で製造・輸入されることは、原則としてありません。しかし、過去に排出されたものが分解されずに河川や地下水などの環境中に残存していることが、現在の課題となっています。



2.環境中のPFASと対策の進捗


2.1 環境中の濃度は減少傾向にある


環境省は、2009年度から全国数十箇所でPFOS・PFOAのモニタリング調査を継続的に行っています。


2023年度までの調査結果から、公共用水域の水質、底質、大気中のPFOS・PFOA濃度は、統計的に有意な減少傾向がみられました。また、魚類についても同様の減少傾向が確認されており、国内の規制や対策の効果が着実に現れていることが示唆されます。


環境中のPFASと対策の進捗


2.2 水道水への徹底した管理と対応


PFOS等による健康リスクを低減するため、2020年に水道水におけるPFOS・PFOAの合算値について、暫定目標値が50 ng/Lと設定されました。

これは、一生涯摂取し続けても健康への悪影響がないと推定される量(TDI)に基づき、より安全性を見込む観点から設定されたもので、この目標値を超過した水の飲用が直ちに健康被害につながるものではありません。


水道事業者等は、この目標値に基づき検査を定期的に行っています。目標値が設定された2020年度には全国で11の事業で超過が確認されましたが、水源の取水停止や活性炭処理などの対策が迅速に講じられた結果、2024年9月末時点では、目標値を超過している水道事業者は0となっています。

日本の水道管理における対策が機能していることが示されています。



2.3 食品や身の回りの製品について


  • 食品からの摂取量:

    農林水産省や厚生労働省による調査の結果、魚介類や一部の肉類を除けば多くの食品でPFOS・PFOAはほとんど検出されていません。一般的な食生活における平均的な摂取量は、後述の安全な摂取目安(TDI)を十分に下回っていると評価されています。

  • フッ素加工品: フライパンなどに使われるフッ素樹脂は、PFOSやPFOAとは別の物質です。かつてPFOAがフッ素コート剤の製造過程で使用された時期がありましたが、国内では規制に先立ち、企業の自主的な取り組みですでに全廃されています。



3.健康影響:科学的知見に基づきPFASを正しく理解


PFASの健康影響については、国際的に見解が分かれている部分もありますが、日本では内閣府に設置された食品安全委員会(FSC)が、リスク管理機関から独立した立場で評価を行っています。


FSCは、膨大な動物試験や疫学研究の結果を精査し、2024年6月にPFOSとPFOAの健康影響評価を公表しました。



3.1 耐容一日摂取量(TDI)の根拠


FSCが評価した結果、肝臓、脂質代謝、発がん性、免疫系など幅広い項目の中で、現時点で最も確かな証拠があると判断されたのは、動物試験で見られた生殖・発生毒性(胎児への影響)でした。具体的には、動物の出生後の体重増加の抑制や骨の形成への影響などが報告されています。


この生殖・発生毒性に関する知見に基づき、FSCはヒトが一生涯にわたって毎日摂取し続けても健康への悪影響がないと推定される量として、耐容一日摂取量(TDI)を設定しました。


  • PFOSおよびPFOAのTDI:20 ng/kg体重/日



3.2 発がん性分類(IARC)の解釈について


国際がん研究機関(IARC)は、PFOAをグループ1(ヒトに対して発がん性がある)に、PFOSをグループ2B(ヒトに対して発がん性がある可能性がある)に分類しています。


しかし、このIARCの分類は、発がん性の「証拠の強さ」を示すものであり、ばく露量等を踏まえた「実際の発がんの確率や重篤性」(リスクの大きさ)を示すものではないことに注意が必要です。


FSCはIARCが参照した文献も含めて検討しましたが、発がん性については、動物実験の結果がヒトに当てはまるか判断できないなど、指標値を算出するには情報が不十分であると評価しました。



3.3 過度な心配は不要です


現在の日本の一般的な食生活(飲水を含む)から摂取されるPFOS・PFOAの平均的な摂取量は、FSCが設定したTDIと比較して十分に低い状況にあると考えられています。


FSCは、「現時点の情報は不足しているものの、通常の一般的な国民の食生活(飲水を含む)から食品を通じて摂取される程度のPFOS・PFOAによっては、著しい健康影響が生じる状況にはない」と結論付けています。


PFOS・PFOAのリスクを過剰に懸念して食生活を偏らせるようなことは、むしろ栄養学的な過不足をもたらすなど、新たな異なるリスクをもたらすおそれがあるとも指摘されています。


PFASを正しく理解し、過度に心配することなく、日々の生活を大切に送りましょう。



3.4 血中濃度に関する注意点


血液検査で血中PFAS濃度を測る動きもありますが、血中濃度は過去の摂取を反映するものの、PFOS・PFOAの半減期は数年単位であることや、体内動態に不明な点が多いため、その濃度から個人の健康リスクや過去の摂取時期・量を正確に推測することは困難です。


海外の血中濃度ガイドラインも、個人の健康障害の診断基準ではなく、地域の住民のばく露状況を把握したり、対策の効果を測ったりするための参考値として使われています。



4.国・自治体の総合的な対応と今後の見通し


国は、科学的根拠に基づき、「作らない・出さない」、「広めない」、「摂取しない」、「正しく知る」の4つの柱でPFAS対策を推進しています。



4.1 排出源への管理強化


原因の一つとされるPFOS等含有の泡消火薬剤については、在庫量の把握と、より安全な代替品への切り替えを促しています。また、既存の薬剤の保管基準を厳しくしたり、みだりに環境中に放出されないよう表示義務や回収義務を設けたりするなど、管理を強化しています。事故等で環境中に流出した場合にも、速やかな報告と応急措置が義務付けられています。


廃棄物処理についても、PFOS等を確実に分解処理するため、850℃〜1000℃(1100℃推奨)以上の温度で2秒以上の滞留時間を確保した焼却処理など、技術的な基準が示されています。



4.2 水道水基準の見直しとリスクコミュニケーション


水道水については、暫定目標値(50 ng/L)を達成・維持するための管理が徹底されています。さらに、FSCの新しいTDI評価を踏まえ、現在、環境省では、この暫定目標値自体を、より厳しい水道水質基準という法的な基準項目に引き上げる検討が進められています。

また、公共用水域や地下水で指針値を超過した場合、地域住民の不安に寄り添った情報発信(リスクコミュニケーション)が重要とされています。


自治体は、環境省のQ&A集を活用しつつ、地域の健康指標(コレステロール値、がん罹患状況、低体重児など)に関する既存統計を用いて、住民に情報発信を行うことが望まれています。



4.3 PFOS・PFOA以外のPFASへの対応(今後の課題)


PFASは1万種類以上ありますが、PFOS、PFOA、PFHxS以外の物質については、その有害性や環境中での存在状況に関する知見がまだほとんどありません。


このため、国は2024年度から「PFASに関する総合研究」を開始し、有害性評価や効率的な分析手法の開発を進めています。また、水道水の監視対象(要検討項目)にPFHxSに加え、新たに7種類のPFASを追加し、実態把握を強化する予定です。


今後は、科学的な知見が集まるにつれて、個別の物質ではなく、PFAS全体をどう管理していくかという議論が本格化する可能性があります。



まとめ:正しい知識で冷静に対応するために


PFAS、特にPFOS・PFOAについては、環境残留や健康影響への懸念がありますが、日本の専門機関による最新の評価では、通常の一般的な食生活における摂取量では、著しい健康影響が生じる状況にはないとされています。また、水道水などの対策も着実に進捗しており、環境中の濃度も減少傾向にあります。


私たちにとって最も大切なことは、不確実な情報や過度に不安を煽る情報に惑わされず、信頼できる公的な情報源(環境省のポータルサイトや食品安全委員会のQ&A集など)に基づいて、冷静に現状を理解し、見守っていく姿勢です。


過剰に怖がることなく、科学的な進展と、それに基づく国や自治体の対策に注目していきましょう。


坂本裕尚

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