冬こそ気をつけたい! リチウムイオン電池の発火と正しい対処法
- 坂本裕尚
- 10月27日
- 読了時間: 7分
あなたの身近な製品に潜む「熱と衝撃」の危険
近年、列車内でのモバイルバッテリーの発火事故や、スマートフォンからの出火など、リチウムイオン電池(LiB)使用製品による火災のニュースを耳にすることが増えました。
リチウムイオン電池は、小型で軽量ながら大容量のエネルギーを蓄え、繰り返し充電できるという、現代のポータブル機器には不可欠な技術です。
スマートフォンやノートパソコンはもちろん、ワイヤレスイヤホン、スマートウォッチ、携帯用扇風機など、日常的に身に着けたり持ち歩いたりする製品の心臓部として使われています。

しかし、この便利な電池には、「熱」と「衝撃」に弱いという構造上の特性があり、使い方や捨て方を誤ると、発熱や発火といった無視できないリスクが潜んでいます。
消費者庁の事故情報データバンクによると、ワイヤレスイヤホン、スマートウォッチ、携帯用扇風機の3製品だけでも、2020年度から2024年度の5年間で、発熱・発火等の事故情報が計162件登録されており、そのうち 84.0% にあたる 136件 がリチウムイオン電池に起因すると考えられています。
しかも、これらの事故件数は近年増加傾向にあります。
■消費者庁(リチウムイオン電池使用製品による発火事故に注意しましょう - 身に着ける、持ち歩く製品にも使用されています -)2025.10.02 https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_safety/caution/caution_083/ |
特に冬は、暖房器具の使用や熱がこもりやすい状況が増えるため、取り扱いには細心の注意が必要です。
(本ブログは、前段の消費者庁の注意喚起の資料をもとに、「リチウムイオン電池の発火と正しい対処法」と題してお届けします。)
なぜリチウムイオン電池は発火するのか? その構造的弱点
リチウムイオン電池の事故を防ぐためには、その発熱・発火のメカニズムを理解することが近道です。
(1) 燃えやすい電解液とセパレータの存在
リチウムイオン電池は、電気を蓄える正極板と負極板の間に、セパレータと呼ばれる薄い膜があり、内部は引火性のある有機溶媒を多く含む電解液で満たされています。
この燃えやすい液体があるため、ひとたびトラブルが起きると火災につながりやすいのです。
(2) 衝撃・圧力による「内部ショート」
リチウムイオン電池の主な弱点の一つは、物理的なストレスです。外部から強い衝撃や圧力が加わると、内部のセパレータが破損し、正極板と負極板が電気的につながってしまう「内部ショート」が発生します。
ショートが発生すると、そこで一気に大電流が流れ、異常に発熱し、引火性の電解液に火がついて発火に至ります。
【要注意】
強い衝撃や圧力が加わった後、時間が経ってから発熱・発火等することもあるため、継続的な注意が必要です。
(3) 高温による「熱暴走」
もう一つの弱点は「熱」です。
リチウムイオン電池は高温環境に置かれると、内部の化学反応が異常に進み、発熱を制御できなくなる「熱暴走」を引き起こすことがあります。
日常で守るべき「使用時」の安全ポイント
リチウムイオン電池に起因する事故は、日常生活の「うっかり」から発生することが多いです。特に身に着ける小型製品では、衝撃や充電中の事故が多く報告されています。
① 強い衝撃や圧力を加えない
製品を落としたり、ポケットやカバンに入れたまま座ったりして、電池に強い衝撃や圧力を加えないようにしましょう。
変形してしまった製品は、無理に元に戻そうとせず、直ちに使用を中止してください。
② 高温になる場所での使用・保管を避ける
冬場でも、以下の場所では製品や充電器を使用・保管しないでください。
高温環境は熱暴走のリスクを高めます。
暖房器具の近く
熱がこもりやすい場所(布団の中、カバンや布の中など)
③ 充電は「安全な場所」で「起きている時」に
事故が発生した際の状況を見ると、ワイヤレスイヤホンの75.5%、携帯用扇風機の84.2%が充電中に発生しています。
充電という行為自体が、バッテリーのわずかな損傷を露呈させるタイミングになり得ます。
充電は、周囲に可燃物のない安全な場所で行いましょう。
充電したまま就寝すると、万が一発火した場合の対応が遅れるため、なるべく起きている時間帯に行い、製品の様子が確認できるようにしましょう。
スマートウォッチを装着したまま寝て、発熱によりやけどをした事例も報告されているため、就寝時の使用にも注意が必要です。
④ 異常を感じたら直ちに使用を中止する
以下のような異常や変化に気が付いたら、発煙・発火につながる危険性があるため、すぐに使用・充電を中止し、事業者に相談してください。
熱くなっている、膨らんでいる、液漏れしている
変なにおいがする、異音がする
微妙な変化(充電が遅くなった、以前より熱くなる、突然電源が切れるなど)
⑤ 信頼できる製品を選び、リコール情報を確認する
非純正の非常に安価な製品の中には、粗悪品の場合があり、過充電などの事故リスクが高まります。
信頼できる純正の電池と製品を購入しましょう。
モバイルバッテリーを購入する際は、「PSEマーク」が付いているかを目安に確認しましょう(一部対象外あり)。
購入後も、消費者庁リコール情報サイトやNITE(独立行政法人製品評価技術基盤機構)のSAFE-Liteなどで、お使いの製品がリコール対象になっていないか定期的に確認する習慣を持ちましょう。リコール対象製品が原因で重大事故につながるケースも発生しています。
⑥ 発火時は「大量の水」で初期消火を
万が一発火した場合は、まず自身と周囲の人の身の安全を確保してください。
火勢が収まった後など、可能であれば、消火器を使う、または大量の水をかける、水をためたバケツに投入するなどして被害拡大を防ぎます。
少量の水をかけるだけでは、かえって火勢が増すおそれがあり危険です。対処が困難と判断した場合は、直ちに119番通報してください。
深刻化する「廃棄時」の火災事故を防ぐために
リチウムイオン電池の事故は、使用時だけでなく、廃棄された後にも大きな社会問題を引き起こしています。
(1) ごみ処理施設での火災が全国で頻発
近年、ごみ収集車やごみ処理施設で、廃棄物の中に混ざった製品内のリチウムイオン電池が、圧縮や破砕された際に内部ショートを起こし、火災につながる事故が頻繁に発生しています。
環境省の調査によれば、令和5年度(2023年度)だけで、全国で約8,500件もの消火活動が必要な火災事故が発生しました。
ごみ処理施設が被害を受けると、多額の修繕費用がかかるだけでなく、ごみ処理が滞り、市民生活に大きな影響を及ぼします。
たった一つの小さなワイヤレスイヤホンでも、他のごみと一緒に圧縮・破砕されると、地域全体を巻き込む大きな火災に発展する可能性があるのです。
(2) 正しい「捨て方」の4つのポイント
製品を廃棄する際は、絶対に他のごみと混ぜて捨てないことが最重要です。
リチウムイオン電池が使用されているかを確認する 充電できる製品や、コードレスで動く・光る製品には、リチウムイオン電池が使われている可能性が高いです。リサイクルマークの有無も目安になります。
リサイクル可能なものはリサイクルへ モバイルバッテリーや単体のリチウムイオン電池(一部例外を除く)は、一般社団法人 JBRCが回収を行っています。家電量販店などの「排出協力店」や協力自治体に持ち込みましょう。
自治体の廃棄方法を必ず確認する 電池が取り外せない製品や、JBRCの対象外となる電池については、お住まいの地域の自治体のルール(分別方法や収集日、回収ボックスの場所など)に厳格に従って捨ててください。
廃棄前にはなるべく電池を使い切る 発火のリスクや被害を軽減するため、廃棄する前には電池を使い切って残量を減らしておくことが推奨されています。ただし、絶対に製品を分解して電池を取り出そうとしないでください。これは内部ショートを引き起こす非常に危険な行為です。
まとめ(リチウムイオン電池の発火と正しい対処法)
リチウムイオン電池は、現代社会を支える不可欠な技術ですが、その強力なエネルギー源に潜むリスクを理解し、適切に管理する責任は私たちユーザー一人一人にあります。
この冬、安全な製品の購入と使用を心がけ、そして製品を使い終えた際は、「ごみ処理施設の火災を防ぐ」という意識を持って、分別回収にご協力をお願いいたします。
坂本裕尚
参考情報
Anker、バッテリーなど約52万台自主回収 経産省が指導(20251021 日経新聞)
アンカー・ジャパンによるリコール(回収及び交換)実施について(20251021 経産省)
Ankerグループ4製品に関するお詫びと自主回収のお知らせ(Anker)



