日本の「食・自然・安全」は大丈夫? 気候変動影響評価報告書を読み解く
- 坂本裕尚
- 2025年12月22日
- 読了時間: 5分
先日、環境省から「第3次気候変動影響評価報告書(案)」が公表されました。
環境省:「気候変動影響評価報告書(総説)(案)」に対する意見の募集(パブリック・コメント)について(お知らせ) | |
パブリック・コメント:気候変動影響評価報告書(総説)(案)に対する意見の募集(パブリック・コメント)について |
「お役所の報告書でしょ?」と思われるかもしれませんが、この中身が実は私たちの毎日の食卓や、命に関わる防災に直結する衝撃的な内容となっています。
「気候変動影響評価報告書を読み解く」
今回は、この報告書を基に「今、日本で何が起きているのか」を分かりやすく解説します。

1. これは「遠い未来」の話ではない
まず、この報告書最大の特徴は、気候変動の影響を「重大性」「緊急性」「確信度」という3つの物差しで評価している点です。
重大性:社会・経済・環境にどれだけひどい影響があるか
緊急性:いつ対策すべきか(今すぐか、将来か)
確信度:その情報はどれくらい確かなのか
専門家による総合的な判断(エキスパート・ジャッジ)の結果、多くの分野で「影響はすでに深刻であり、対策は待ったなし」という評価が下されました。
2. 「食」の危機:お米とフルーツに異変
私たちの食卓に欠かせないお米や果物に、すでに目に見える変化が起きています。
お米:暑すぎて品質が低下
夏の高温により、お米の粒が白く濁る「白未熟粒(しろみじゅくりゅう)」が増え、等級(品質)が下がっています。
2023年の猛暑では、一等米の比率が過去最低レベルまで落ち込んだとのこと。これは単に「今年の夏は暑かった」で済む話ではなく、日本の主食の基盤が揺らいでいる証拠です。
果物:色が着かない、日焼けする
リンゴやブドウ、ミカンなどの果樹でも、「着色不良(色がうまくつかない)」や「日焼け」が全国的に発生しています。
作物 | 起きている現象・将来予測 | 評価レベル(重大性) |
水稲(コメ) | 高温による白未熟粒の増加、品質低下。将来的には収量減も懸念。 | 3 (最高) |
果樹 | リンゴ・ブドウ等の着色不良、日焼け。栽培適地(作れる場所)の変化。 | 3 (最高) |
海の幸 | サンマ・サケの不漁。ブリ・サワラの北上。高水温による養殖魚のへい死。 | 3 (最高) |
ピンチはチャンス?アボカドの可能性
今まで日本では栽培が難しかった「アボカド」などが、温暖化によって逆に作れるようになるかもしれないというのです。
しかし、農家の方がすぐにリンゴからアボカドに切り替えられるかというと、栽培技術や土壌の問題があり、そう簡単ではありません。
「栽培適地の移動」は、日本の農業地図を塗り替えるほど大きな問題なのです。
3. 「自然」の崩壊:生態系のミスマッチ
日本の四季を彩る自然や生き物たちにも、不可逆的な変化が起きています。
桜の開花と「ミスマッチ」
サクラの開花時期が早まっていることは皆さんも実感していると思います。報告書でも、生物の季節性が変化していることが指摘されています。「花は咲いたのに、受粉をしてくれる昆虫がまだ活動していない」というタイミングのズレ(ミスマッチ)が起き、植物が実を結ばなくなる現象が観測されているそうです。
シカの北上と「招かれざる客」
冬の積雪が減ったことで、ニホンジカが雪深い地域や高山帯へ生息域を広げています。
これに伴い、シカの体にひっついて「ヤマビル」まで分布を広げているという怖い連鎖が起きています。これまでヤマビルがいなかった岩手県北部などでも見つかるようになり、ハイキングなどのレジャーにも影響が出ています。
4. 「安全」の脅威:災害の激甚化と健康リスク
最も警戒すべきなのが、命に関わる災害と健康被害です。
雨の降り方が変わった
「1時間に50mm以上の短時間強雨」の発生回数が増加しています。
「イベント・アトリビューション」という分析手法によると、2018年の西日本豪雨(平成30年7月豪雨)のような雨は、「温暖化がなければ起こり得なかった(発生確率が約3.3倍になっていた)」と結論づけられています。
災害・健康リスク | 現状と将来予測 | 評価レベル(重大性) |
洪水・内水氾濫 | 短時間強雨の増加によりリスク増大。将来、洪水被害額は現在の約2倍~になる予測も。 | 3 (最高) |
高潮・高波 | 台風の強大化と海面水位の上昇により、沿岸部の浸水リスクが激増。 | 3 (最高) |
熱中症 | 死亡リスク、救急搬送者数ともに増加傾向。特に高齢者が危険。 | 3 (最高) |
感染症 | 蚊(ヒトスジシマカ)の生息域が北上し、デング熱などのリスクが拡大。 | 3 (最高) |
サンゴ礁は「天然の防波堤」
沖縄などの亜熱帯地域では、海水温の上昇でサンゴの白化(死滅)が進んでいます。
サンゴは観光資源としてだけでなく、「沖からの高波のエネルギーを97%も消し去る」という強力な防災機能(天然の防波堤)を持っています。サンゴが死ぬことは、沿岸の町が直接高波にさらされることを意味します。自然を守ることは、防災そのものなのです。
まとめ:私たちにできる「適応」とは(気候変動影響評価報告書を読み解く)
今回の報告書は、これらが「将来の予測」ではなく「今すでに起きている現実」であることを突きつけています。
政府は2026年度(令和8年度)に、この報告書を基に法律に基づく計画を見直す予定です。
しかし、国の対策を待つだけでなく、私たちも変化した気候に合わせて生活を変えていく「適応(てきおう)」が必要です。
ハザードマップを再確認する(雨の降り方は昔とは違う)
熱中症対策を徹底する(これまで安全だった地域でもデング熱のリスクがある)
食の変化を受け入れる(旬や産地の変化を知る)
このブログが、皆さんの生活を守るための「適応」の第一歩になれば幸いです。
坂本裕尚


