COP30の結果概要:企業の脱炭素・サステナビリティ戦略への影響とは?
- 坂本裕尚
- 2025年12月15日
- 読了時間: 5分
2025年11月、ブラジルのベレンで開催された国連気候変動枠組条約第30回締約国会議(COP30)が閉幕しました。
今回の会議は、パリ協定のルール策定フェーズから「実行」フェーズへの移行を決定づける重要な節目となりました。
◆外務省_国連気候変動枠組条約第30回締約国会議(結果)
◆環境省_2025.11.25
本記事では、企業の環境・サステナビリティ担当者が押さえておくべきCOP30の主要成果と、今後のビジネスへの影響について解説します。

全体像:「実行」と「連帯(ムチラオ)」のCOP
今回のCOP30は、ポルトガル語で「共同作業」や「助け合い」を意味する「ムチラオ(Mutirão)」をテーマに掲げ、最終成果文書として「グローバル・ムチラオ決定(The Belém Package)」が採択されました。
これまでのCOPが「ルールの合意」に重きを置いていたのに対し、COP30は企業や自治体、市民社会を含む「社会全体での実行」に焦点を移した点が最大の特徴です。
企業にとっても、計画策定だけでなく、具体的な排出削減や適応策の「実績」がより厳しく問われるフェーズに入ったと言えます。

ビジネスに直結する5つの重要ポイント
① 1.5℃目標の「一時的超過」の認識とNDCの強化
今回初めて、COP決定文書の中で「1.5℃目標を一時的に超過(オーバーシュート)する可能性」が公式に認識されました。
各国が提出した新たな削減目標(NDC 3.0)を合わせても、2035年時点で2019年比12%程度の削減にとどまり、1.5℃目標に必要な削減幅には届いていない現状が浮き彫りになりました。
【 企業への影響 】
「一時的超過」の認識は、目標の放棄ではなく、むしろ「超過期間を最小限にするための即時の行動加速」を意味します。
今後、各国政府による規制強化や、サプライチェーン全体での削減圧力(Scope 3)がさらに強まることが予想されます。
② カーボンマーケットの標準化と「オープン・コアリション」
企業が注目すべき動きとして、ブラジルやEUなどが主導し、「コンプライアンス(義務的)炭素市場に関するオープン・コアリション」が立ち上げられました。
これは、炭素市場の信頼性と透明性を高め、国際的な連携を強化することを目的としています。また、パリ協定6条(市場メカニズム)に関しても、CDM(クリーン開発メカニズム)からの移行期間延長などの実務的な決定がなされました。
【 企業への影響 】
炭素クレジットの品質やダブルカウント防止に関する基準が厳格化・統一化される方向です。
高品質なクレジットへの需要が高まる一方で、グリーンウォッシュ批判を避けるためのデューデリジェンスがより重要になります。
③ 森林・ネイチャーポジティブへの資金動員
開催地がアマゾンであったことから、森林保全は主要テーマでした。
成果として、熱帯林保全に対する成果払い基金「トロピカル・フォレスト・フォーエバー・ファシリティ(TFFF)」が立ち上げられ、初期資金の誓約が行われました。
【 企業への影響 】
森林破壊に関連するコモディティ(木材、パーム油、大豆など)を扱う企業に対し、サプライチェーン管理の徹底を求める動きが加速します。
また、生物多様性や自然資本への投資(ネイチャーポジティブ経営)が、気候変動対策と不可分なものとして評価されるようになります。
④ 気候変動「適応」への資金と指標
緩和(削減)だけでなく、「適応」にも焦点が当たりました。
2035年までに適応資金を(2019年比で)少なくとも3倍にするよう努力することが呼びかけられました。また、適応の進捗を測るための59の指標が採択されました。
【 企業への影響 】
気候災害に対する事業の強靭化(レジリエンス)が、投資家からの評価項目として重要度を増します。
TCFD/ISSB等の開示において、物理的リスクへの対応策をより具体的に示すことが求められます。
⑤ 貿易と気候変動の対話(CBAM等への懸念)
今回初めて、貿易政策が気候変動対策に与える影響についての対話の場を設けることが決定されました。
これは、EUの炭素国境調整メカニズム(CBAM)のような一方的な貿易措置に対する途上国の懸念を背景としたものです。
【 企業への影響 】
国際貿易を行う企業にとって、炭素価格や環境規制が貿易障壁となるリスク(あるいは機会)について、国際的な議論の動向を注視する必要があります。
「化石燃料」を巡る攻防と今後の展望
注目されていた「化石燃料からの移行」については、産油国等の反対により、拘束力のあるロードマップ作成は合意文書に見送られました。
しかし、議長国ブラジルは国連プロセス外で有志国によるロードマップ策定を進める意向を示しています。
これは、全会一致の国連プロセスだけでは決まらない部分を、意欲ある国や企業の連合(コアリション)が先行して進めるという「多層的なアプローチ」へのシフトを示唆しています。
まとめ:企業担当者が今やるべきこと
COP30の結果を受け、企業の環境担当者は以下の点を見直すことをお勧めします。
削減目標の再確認: 1.5℃目標との整合性を再確認し、前倒しでの達成が可能か検討する。
適応策の具体化: 自社のサプライチェーンや拠点の物理的リスクを再評価し、レジリエンス強化への投資計画を策定する。
炭素市場への対応: クレジットを利用する場合、国際的な品質基準(インテグリティ)を満たしているか厳格にチェックする。
ネイチャーとの統合: 気候変動対策と生物多様性保全を統合した戦略(森林保全、水資源管理など)を検討する。
最後に(COP30の結果を受けて)
COP30は、派手な新目標の合意よりも、地道な「実行」の枠組み作りに注力した会議でした。
それは、気候変動対策が「宣言」の段階を終え、実体経済の中で「実装」される段階に入ったことを意味します。
次回のCOP31(トルコ開催予定・オーストラリアが交渉議長)に向け、企業もまた、実効性のあるアクションを積み重ねていくことが求められています。
坂本裕尚



