欧州のサーキュラーエコノミー政策が日本企業に迫る変革:先手必勝の戦略とは?
- 坂本裕尚
- 8月7日
- 読了時間: 9分
近年、私たちのビジネス環境は「サーキュラーエコノミー」というキーワードによって大きく変化しています。
特に欧州では、製品設計から資源利用、廃棄物管理に至るまで、経済のあり方を根本から変革しようとするサーキュラーエコノミー(以下、CE)への移行が急速に進んでいます。
これは、単にゴミを減らそうとか、そういうレベルの話ではないんですよね。経済システムそのものを根本から変えようという、壮大な動きなんです。
その背景には、資源を無駄なく確保したい、特に中国やロシアへの依存を減らしたい、といった安全保障の側面もあれば、もちろん気候変動対策という環境目標達成のためという目的も大きくあります。
日本でも、この欧州の動きに対応する形で国内の法制度の検討や、企業・産業レベルでの取り組みが加速しており、国内外の動向を理解し、戦略的に準備を進めることが企業にとって非常に重要となっています。
本ブログでは、欧州が推進する主要なCE施策と、それらに対する日本企業の対応について、具体的なポイントを解説していきます。

欧州が描く「持続可能な製品」の未来
欧州のCE政策の中心には、「エコデザイン規則(ESPR:Ecodesign for Sustainable Products Regulation)」、「修理する権利指令(R2R指令)」、そして「包装・包装廃棄物規則(PPWR)案」という3つの主要な法令があります。
これらの法令は、「欧州グリーン・ディール」の下位に位置する「新循環型経済行動計画(CEAP)」によって推進されており、循環型経済の実現を目指しています。
欧州のCE政策は、その実現のために「規制」「資金」「技術」の3つの要素を整備してきました。
規制:企業が製品の設計から廃棄物処理まで全ての段階でCEを考慮せざるを得ないよう、広範な法規制が網羅されています。
資金:欧州委員会は「Horizon Europe」などの大規模な研究補助金プログラムや、欧州構造投資基金、LIFEプログラムなどを通じて資金提供を行っています。例えば、欧州投資銀行は2025年までに160億ユーロ規模の投資目標を掲げていたりもします。
技術:「Horizon Europe」などの資金提供を軸に、産学官連携での技術開発が進められています。
欧州のサーキュラーエコノミー政策を深掘り!
それでは、具体的に欧州のサーキュラーエコノミー政策、市場に関わる上で特に知っておくべき規制を見ていきましょう。

1. エコデザイン規則(ESPR)
2024年7月18日に発効したこの規則は、食品や医薬品など一部の製品を除く、ほぼすべての物理的製品が対象となります。家電だけでなく、鉄鋼やアルミニウムのような素材レベルまで対象になる可能性があります。
目的は、製品の長寿命化、再利用・修理・リサイクルの容易化、リサイクル材の使用促進、使い捨ての制限、早期陳腐化対策、売れ残り耐久消費財の廃棄禁止など、多岐にわたります。
大きな特徴はデジタル製品パスポート(DPP)の導入です。これは、製品の持続可能性や循環性、コンプライアンスに関する情報を電子的に管理し、サプライチェーン全体でアクセス可能にすることで、トレーサビリティを向上させることを目指しています。DPPデジタル登録簿は2026年7月19日までに設置される予定です。
修理可能性要件の強化や、耐久性、リサイクル可能性、再生材料(リサイクル材)の使用・含有、エネルギー・水資源の使用効率、売れ残り製品の廃棄抑制など、多岐にわたる「性能要件」と「情報要件」が定められています。特に衣料品など一部の売れ残り製品の廃棄は2026年7月19日以降禁止されます。
2. 修理する権利指令(R2R指令)
2024年7月30日に発効したこの指令は、エコデザイン規則で修理可能性要件が規定された製品に対し、製造事業者が合理的な期間と価格で製品を修理する義務を負うことを定めています。
消費者が修理事業者を探せる欧州修理オンラインプラットフォームの設置も促進されるほか、修理後の法的保証期間の延長(12カ月延長)も盛り込まれています。
3. 包装・包装廃棄物規則(PPWR)案
現在立法過程にあるこの規則案は、包装材として使われるプラスチックの使用量やプラスチック包装の設計を大幅に変え、循環性を高めることを目的としています。
包装廃棄物の削減目標(2030年までに2018年比5%削減など)や、包装材料ごとのリサイクル目標(例えばプラスチックだと2030年までに55%など)が各国に課されます。
さらに、プラスチック包装のリサイクル材含有率の義務化(2030年までにPET包装で30%など)や、一部の使い捨てプラスチック包装(例: 飲食・宿泊部門の使い捨て包装)が2030年以降禁止されるなど、厳しい規制が含まれています。
これらの規制は、欧州における基本的な廃棄物管理原則を定める EU廃棄物枠組み指令(WFD)の理念(廃棄物の削減、汚染者負担、拡大生産者責任)の下に位置付けられ、製品の設計段階から使用済み後の段階まで、階層的に法制度を形成しています。
特に EU廃棄物輸送規則(WSR)は、「リサイクル処理されたスクラップ」と「使用済み製品(廃棄物)」の定義を明確に分けず、EU域内でのリサイクルを促進する狙いがあるのです。
欧州CE政策への移行の現状と課題
欧州はCE政策の整備を精力的に進めてきましたが、実は、世界の製造業のCEへの移行は期待したほど成功していないという見方もあります。
主な理由として、企業が既存のバリューチェーンをCE型に変えることで「競争力が維持できない」ことが挙げられます。
CE移行によるコスト増加を吸収できる付加価値提供の事例はまだ少ないのが現状です。
また、リサイクルされた材料の市場が未発達で、バージン材(新品の材料)がリサイクル材よりも安価であることや、複合素材のリサイクル技術など、技術的ハードルが高い分野での課題も指摘されています。
もちろん、成功事例もあります。
例えば、英国のToast Brewing社は、余剰パンを原料にビールを製造・販売することで、原料調達コストの削減、製品の差別化による付加価値向上、そして社会貢献というイメージ確立を実現し成功しています。
日本の「資源循環」への取り組み
日本では、2000年代に施行された各種リサイクル法により3R(リデュース、リユース、リサイクル)が一定の成果を上げてきました。

しかし、国際的な動向を踏まえ、より強力かつ包括的な資源循環の推進が求められています。
特に繊維産業においては、環境負荷低減と国際競争力維持の観点から「資源循環の取り組み強化」が掲げられています。
現状の課題:
国内で手放される衣類の多く(約64.8%)が埋め立て・焼却処分されており、繊維から繊維へのリサイクル(繊維 to 繊維リサイクル)率は世界全体でも1%未満と極めて低いのが現状です。これは、衣類の構成素材の多様性(混紡品など)が大きな要因であり、手作業での選別効率の悪さや、リサイクル材の品質不安定性、プロセス全体の高コストなどが課題となっています。
技術開発の方向性:
高度選別技術:近赤外分光(NIR)などを活用した自動選別装置やロボティクス技術による付属品除去の効率化が求められています。
高品位な繊維原料への再資源化技術:綿やポリエステルといった主要素材のケミカルリサイクル技術の品質向上、省エネ化、低コスト化が重要です。特に複合素材からの不純物分離技術の開発が課題とされています。
リサイクルを前提とした製品設計(易リサイクル設計):機能性を維持したままモノマテリアル化を進めることや、リサイクルしやすい付属品の開発、解体容易性の向上が求められます。
日本の繊維企業は海外生産の割合が高く、グローバル展開で競争力を維持してきました。しかし、欧州を中心にリサイクル繊維原料の使用を義務付ける規制が設定される動きがあるため、リサイクル繊維原料を調達できなければ日系企業の繊維製品が海外市場から排除されるリスクが高まっているんです。これは大きな話ですよね。
欧州と日本のCE施策:比較と日本企業の戦略的対応
欧州のCE規制は、製品の設計段階(デザインフェーズ)に深く踏み込み、修理容易性やデジタル製品パスポート(DPP)といった機能要件を大幅に強化しようとしています。
一方、日本の資源循環への取り組み、特に繊維産業の例では、再生材(リサイクル繊維)の使用促進や製造工程での再活用、そしてそれを可能にする技術開発に重点が置かれています。
グローバルな製造業におけるCEへの移行は、既存のバリューチェーンをCE型に変えることで「競争力が維持できない」という課題に直面し、期待したほど成功していないという報告もあります。
欧州の規制は、EU域外の製造業者にとって、EU規制に合わせたサプライチェーンとその他の地域へ販売する製品のための二つのサプライチェーンを持つことになり、事業コスト増を招く可能性があります。
では、こうした規制強化の流れに対して、日本企業はどのように対応していくべきなのでしょうか?
日本企業が国際競争力を維持・強化し、持続可能な成長を実現するためには、以下の戦略が有効と考えられます。
サプライチェーン全体を見直す: 欧州の「設計上の視点」と日本の「生産プロセス・廃棄物管理の視点」を捉え、サプライチェーン全体を巻き込む形で循環ビジネスモデルへの変革を進めることが、各制度に適した対応策を検討しやすくなります。
技術革新への投資: 特に繊維 to 繊維リサイクルなど、複合素材のリサイクルといった技術的に難しい分野での開発を含め、新しいリサイクル技術や、環境負荷の少ない素材開発を積極的に取り入れ、企業の競争力を高めることが重要です。
社内体制の強化: 法務・コンプライアンス部門を強化し、環境目標の策定とモニタリングシステムを導入、全社員への環境法規制に関する教育プログラムを実施するなど、社内体制の整備が最優先です。
ITシステムの活用: 環境管理システム(EMS)を導入し、リアルタイムでのデータ管理や多国対応の柔軟性を確保することで、複雑な法規制への遵守状況を迅速に確認・調整できます。
政策形成への関与: 業界団体や関連当局と協議し、ルールメイキングへ関与していくことも有力な選択肢です。
今後の展望と日本企業のCEご担当者へ
これらの法令は、まだ最終的な適用範囲や施行時期が確定しておらず、いわば「動くゴールポスト」のような状況です。
だからこそ、企業は受け身の法令対応ではなく、「先回りした戦略的な準備」が求められます。
CEへの移行は、単なるコンプライアンスに留まらず、新たな企業戦略として、消費者や投資家からの信頼を得るための重要な要素となります。
重要なのは単に規制を守るっていうだけじゃなくて、その先にある持続可能でかつビジネスとしてもちゃんと成り立つ循環型モデル、これをどう作っていくかということだと思われます。
欧州では、「規制がなければCEは実現しない」という認識のもと、広範な規制が相互にリンクしながらCEの義務化を推進しています。
早期に独自の企業戦略を打ち出し、政策形成にも関わることで、真のサーキュラーエコノミー推進の道が開かれるでしょう。
最後に、ある情報源では、投資家がどうしても短期的な利益を重視する傾向がある一方で、サーキュラーエコノミーのようなもっと長期的な視点が必要な目標とは、ちょっとこう緊張関係にあると指摘しています。
この短期と長期のギャップを埋め、真に循環経済への移行を成功させるためには、社会意識と投資家の意識変化も不可欠と言えるでしょう。
未来のビジネスを勝ち抜くために、今からこの変革の波に乗っていきましょう!
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坂本裕尚



