2026年4月施行「食料システム法」で変わる、価格交渉と持続可能な調達
- 坂本裕尚
- 1月18日
- 読了時間: 6分
1. なぜ今、食料システムの見直しが求められているのか
2026年1月、日本の食料サプライチェーンは、大きな転換期を迎えつつあります。
今月4日にパブリックコメントを終えた「基本方針」は、まもなく正式に決定・公布される見通しです。
そして2026年4月には、「食料システム法(食品等の持続的な供給を実現するための食品等事業者による事業活動の促進及び食品等の取引の適正化に関する法律)」が全面施行される予定となっています。
農林水産省(食料・農業・農村政策審議会 食料産業部会(令和7年12月5日))
これまで多くの企業にとって、「安さを追求すること」は競争力を高める有効な手段であり、ビジネスの前提条件でもありました。
しかし近年、その「安さ」が、サプライチェーン全体の持続性に影響を及ぼしかねない要因として意識されるようになっています。
生産コストを十分に反映できない取引が続くことで、国内の生産基盤が弱体化しているという現実が、少しずつ顕在化してきているためです。
本法の施行は、単なるコンプライアンス対応にとどまるものではありません。
長年続いてきたデフレ的な取引慣行を見直し、供給網の安定性や回復力(レジリエンス)を高めていくために、経営レベルでの判断が求められる節目とも言えるでしょう。

2. 背景:デフレの終焉とコスト上昇という現実
なぜ今、国として「適正な価格形成」に取り組む必要があるのでしょうか。
その背景には、長期にわたるデフレ構造と、近年の急激なコスト上昇という二つの要因があります。
長期デフレによる影響として、1998年を100とした場合、諸外国のGDPデフレータが150〜200を超える水準まで上昇する一方で、日本は低下傾向が続き、2023年時点では93となりました。この状況が、生産現場の投資余力を徐々に削いできたと考えられます。
また、近年のコスト上昇も無視できません。2020年を100とすると、2024年の食料消費者物価指数は132、光熱・水道費は137まで上昇しています。

特に農業分野では、肥料や飼料といった生産資材の価格が2021年以降上昇し、2022年に大きく跳ね上がった後も、高い水準で推移しています。
日本の食品産業は国内生産額105.8兆円と、経済全体の約9%を占める重要な産業です。その原材料となる国産農林水産物の約3分の2は、食品製造業や外食産業へと供給されています。
このため、生産コストが十分に価格へ反映されない状況が続けば、食品産業全体の基盤にも影響が及ぶ可能性があると言えるでしょう。
3. 本質:「適正な価格形成」と環境対応は表裏一体
「適正な価格形成」とは、単に値上げを認めるという意味ではありません。
持続可能な食料システムを維持していくために必要な投資を、適切に分担していくという考え方です。
本法が重視しているのは、コストの見える化が、環境負荷低減(脱炭素など)の取り組みを後押しするという点です。温室効果ガス削減や有機農業の推進には、どうしても一定の追加コストが発生します。
これらの「合理的な費用」が取引価格に反映されなければ、生産者やサプライヤーが環境投資を継続することは難しくなり、結果としてスコープ3削減目標の達成も困難になります。
以下の農水省資料にある「合理的な費用を考慮した価格形成と、持続的な食料システムの確立を一体の取組として検討」という方針は、この点を端的に示しています。
環境負荷低減という付加価値を、取引関係者全体で適切に支えていくことが、将来の食料安全保障にもつながっていくと考えられます。

◆上記、農水省審議会:資料2_食料システム法に基づく基本方針等について(食品等の取引の適正化)
4. 実務の焦点:「判断基準」と監視体制
2026年4月の施行に向け、調達部門が特に注目すべきなのが、農林水産大臣が省令で定める「判断基準(行動規範)」です。
米、野菜、牛乳、豆腐・納豆の4品目は「指定飲食料品」とされ、認定団体が公表する「コスト指標」は、価格協議における重要な参考資料となります。
また、誠実な協議義務(法第36条)に反する行為として、例えば以下のようなケースが想定されています。
公表されているコスト指標があるにもかかわらず、過度に詳細な原価内訳の提出を求めること
補助金の存在などを理由に、納入価格を一方的に引き下げること
さらに、取引実態を確認する体制として「フードGメン」が配置され、必要に応じて勧告が行われます。勧告に従わない場合には、企業名が公表される可能性がある点にも留意が必要です。

5. サステナ担当者にとってのポイント:認定制度の活用
本法は「規制」として捉えるだけでなく、サプライヤーとの関係をより良いものにするための仕組みとして活用することも可能です。
2025年10月に始まった「計画認定制度」を活用することで、認定を受けたサプライヤーは、税制優遇や日本政策金融公庫による長期低利融資などの支援を受けることができます。
単にコスト上昇分を価格に反映するだけでなく、こうした制度の活用をサプライヤーと共に進めることで、財務基盤の強化と脱炭素対応を両立させることが期待されます。
6. 今から取り組みたい3つのステップ
全面施行まで残りわずかとなりました。サステナ部門と調達部門が連携し、次のような対応を検討しておくことが有効です。
食料システム法への対応
米、野菜、牛乳、豆腐・納豆の指定4品目を中心に、現在の契約価格と公表されているコスト指標を照らし合わせ、現状を把握する
サプライヤーと早めに協議の場を設け、コスト上昇や環境対応について率直な対話を行う
判断基準を踏まえた社内ガイドラインを整備し、調達担当者に共有する
7. 結び:パートナーシップが支えるこれからの「食」
食料システム法は、買い手と売り手がコストやリスクを共有し、より対等なパートナーとして協力していくことを促す制度です。
基本方針には「消費者の理解醸成」も盛り込まれており、今後は持続可能性のための適正価格について、社会全体で共有していく段階に入っていくと考えられます。
透明性のある価格形成に取り組むことは、企業の姿勢そのものを示すことにもつながります。
2026年4月以降を見据え、今どのような判断をするかが、将来のサプライチェーンの姿を形づくっていくのではないでしょうか。
CYCLETANK合同会社
代表 坂本裕尚



