自動車リサイクル制度見直しへ──20年目の報告書案が示す5つの論点と実務への影響
- 坂本裕尚
- 10 時間前
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2026年6月9日、経済産業省と環境省の審議会合同会議(第66回)で「自動車リサイクル制度の施行状況の評価・検討に関する報告書(案)」が審議され、6月19日から意見公募(パブリックコメント)が始まりました。
自動車リサイクル法の施行から20年あまり──5年ぶりとなる今回の制度点検は、「全体として概ね順調に機能してきた」という評価の一方で、使用済自動車の海外流出、車載用リチウムイオン電池(LiB)の排出増、再生材をめぐる国際競争という、制度の前提を揺るがす構造変化を浮き彫りにしました。
本記事では、報告書案の要点を企業・自治体の環境部門担当者の視点で整理し、制度が「適正処理」から「資源確保」へと重心を移すなかで、実務に何が求められるのかを読み解きます。

1. 5年ぶりの制度点検──「概ね順調」と評価された20年の成果
自動車リサイクル法は、拡大生産者責任の考え方に基づき、フロン類・エアバッグ類・自動車破砕残さ(ASR)の「指定3品目」について自動車メーカー等に再資源化等を義務付け、その費用を自動車所有者がリサイクル料金(再資源化預託金等)として負担する制度です。平成17年1月の施行から、20年あまりが経過しました。
前回(令和3年)の評価報告書が「遅くとも5年後を目途に評価・検討を行うことが適当」としていたことを受け、審議会では令和7年9月から関係者ヒアリング等を実施。その集大成が今回の報告書案です。
20年の成果は、数字にはっきり表れています。
使用済自動車の適正処理:法施行から令和6年度までの累計で約6,500万台をリサイクル
不法投棄・不適正保管:残存台数は法施行前の約21.8万台から約5千台へ、約98%減
ASRの再資源化率:約97%(法定目標の70%を大幅に超過)
リサイクル料金の預託割合:約97%(令和6年度。使用済みになる前の預託がほぼ定着)
法施行前に社会問題化していた「廃車の山」は、制度によってほぼ解消されたと言ってよいでしょう。報告書案も、制度は「全体として概ね順調に機能してきた」と総括しています。
ただし、報告書案を読み進めると、この評価の前提となる構造そのものが変わりつつあることが分かります。
ここからは、環境部門の実務に関わりの深い3つの構造変化と、それに対する制度側の打ち手を見ていきます。
2. 揺らぐ前提──使用済自動車は256万台、「出口」は海外・「担い手」は減少

国内の自動車保有台数は約7,859万台と増加を続けています。ところが、使用済自動車の発生台数は平成30年度以降毎年減少し、令和6年度は約256万台。ピークだった平成21年度(約392万台)の65%程度まで縮小しました。
クルマが減ったのではなく、「出口」が変わったのです。円安等を背景に中古車輸出は増加を続け、令和6年度は約184万台。さらに、解体後の車体(廃車ガラ)の輸出も急増し、令和6年度は初めて20万件を超えました。国内で解体・破砕工程に回り、資源として循環するはずのクルマが、海外へ流れる構図です。
報告書案は、この流れの中で見過ごせないデータも示しています。輸出向け廃車ガラでは、エアバッグ類等の「装備変更率」(引き取った車両にエアバッグ類等の装備がなかったとする報告の割合)が通常の約2倍と高く、法律で回収が義務付けられているフロン類・エアバッグ類が未回収のまま、虚偽の報告が行われている可能性が示唆されました(報告書案p.48)。
これらへの対応の前に、もう一つ見落とせない構造変化があります。クルマを処理する「担い手」自身も細っているという事実です。解体業の許可業者数は、ピークの平成20年度(6,691者)から令和6年度は4,081者へと約4割減少しました。電子マニフェスト上で移動報告の実績がある「稼働中」の業者に絞ると約3,200者程度で、破砕業者も同様に減少傾向にあります(報告書案 図20)。隣接する自動車整備業でも、人手不足・後継者難・電動化対応を背景に倒産・休廃業が過去最多ペースで推移しており(帝国データバンク調べ)、使用済自動車を扱う現場全体が構造的な縮小局面にあります。
経営環境の厳しさは、業界団体である一般社団法人日本自動車リサイクル機構(JAERA)が審議会に提出した資料に、より生々しく表れています。2019年度を100とすると、2024年度の解体業者の引取台数は全国平均で約60、対して仕入価格は約193──「扱う車が4割減り、仕入は2倍近い」という二重苦の構図です。鉄スクラップ価格が約4.9万円/tと歴史的高値にあっても、オートオークションで輸出業者と競って高値で仕入れざるを得ず(使用済自動車の調達目的での平均落札率は約2割)、利益が残りにくい状況がうかがえます。「使用済自動車をいかに国内に確保するか」という課題は、統計上の台数の問題であると同時に、国内リサイクルの担い手の経営基盤を維持できるかという問題でもあるのです。
こうした状況への対応として、報告書案は次の方向性を打ち出しています。
使用済自動車判別ガイドライン等の点検・見直し(令和8年度から検討開始):中古車と使用済自動車の線引きを、流通実態や欧州ELV規則案の「修理不能車両」基準なども踏まえて再点検
廃車ガラ輸出への追加対策(令和8年度から検討開始):装備変更や事前回収物品の回収の事実を確認できる証憑の保存、輸出時の証明書類の提示徹底など
オートオークションの入口・出口対策:出品管理の適正化(入口策)と、複数回流札した車両を解体業者に斡旋する仕組み(出口策)の検討
解体業の許可基準に「知識・技能要件」を新設(令和8年度から準備開始)
とくに最後の許可基準見直しは、許可・指導を担う都道府県・保健所設置市の実務に直結します。自動車リサイクル法に基づく指導・助言は令和6年度に1,736件にのぼり、その大半を解体業者向けが占めています。新規許可を取得した解体業者の約7割を外国籍事業者が占めており、これは退出していく国内の中小事業者と、輸出等を担う新たな事業者との「入れ替わり」が進んでいることの表れとも読めます。日本語での意思疎通が難しいケースも報告されるなか(なお、指導・助言の対象は国籍を問わず、日本国籍事業者が半分強を占めます)、廃棄物処理法と同様の知識・技能要件を許可基準に設け、JARC(公益財団法人自動車リサイクル促進センター)主体の講習会・検定で担保する方向です。
あわせて、令和8年1月に大規模改造された自動車リサイクルシステム(JARS)には、装備変更率や報告遅延の多い事業者を抽出・表示できる新機能が実装済みで、自治体による立入検査の優先順位付けへの活用が期待されています。
3. 電動化の宿題──廃車由来LiB、2040年度に年約40万個へ

ハイブリッド車(HV)・電気自動車(EV)の普及は、リサイクルの現場には時間差でやってきます。令和6年度に使用済自動車として引き取られた電動車は年間約12万台と、まだ全体の約5%。しかし、新車側ではすでにHVだけで預託台数の約47%(約213万台)を占めており、平均使用年数の17年を経て、排出の波はこれから本格化します。環境省の推計では、使用済電動車由来のLiB排出量は2030年度に年間約13万個、2040年度には年間約40万個に達する見通しです(報告書案p.55)。
現在は、日本自動車工業会が構築し、自動車再資源化協力機構(自再協)が窓口となる共同回収スキームがセーフティネットとして機能しており、令和6年度は13,232個の使用済LiBを回収しました。ただし報告書案は、この仕組みの持続可能性について、次のリスクを率直に指摘しています。
費用負担の構造:回収・再資源化費用は加入メーカー各社の自主負担であり、排出量が急増した場合の退会リスクや、国内市場から撤退したメーカーの車両の処理費用が確保されないリスクが潜在する
スキーム未加入メーカーの車両:解体業者に高額な費用負担が生じ、不法投棄につながるおそれがある
電池の中身の変化:世界的に資源価値の低いリン酸鉄系LiBへのシフトが進んでおり、有価で売れず廃棄処分に回る電池が増える懸念がある
加えて、損傷したLiBの発火・発煙リスクに対する回収・保管・運搬・処理の各段階での安全管理も、引き続きの課題とされています。
報告書案は、廃棄LiBの適正処理体制の構築に向けて、令和8年度中に作業部会を設置し、関係者間で集中的に議論すべきとしました。処理体制の設計次第では、費用負担のあり方や解体業者・排出側の実務が大きく変わり得ます。電動車を社有車・リース車として抱える企業、地域で火災・不法投棄リスクに向き合う自治体の双方にとって、今後2〜3年の議論は注視が必要です。
4. 「適正処理」から「資源確保」へ──動静脈をつなぐ資源循環プラットフォームの構想

今回の報告書案でもう一つ際立つのが、政策目的の重心移動です。従来の「使用済自動車の適正処理の確保」に加えて、「国内資源循環の推進(再生材等の流通促進)」が制度の柱として明確に位置付けられました。背景には、国内外での政策の急展開があります。
国内では、令和8年4月に「循環経済行動計画」が策定され、鉄・アルミ・銅・永久磁石を再生材確保の注力資源と位置付けて2030年までの供給目標を設定する「メタルリサイクル推進戦略」が打ち出されました。同月に施行された改正資源有効利用促進法では、自動車が「指定脱炭素化再生資源利用促進製品」に指定され、メーカーに再生材利用の計画策定・定期報告が義務付けられています。
海外でも、欧州のELV規則案が令和7年12月に暫定合意に至り、新車製造に使うプラスチックについて、規則発効6年後から再生材15%以上(うち自動車由来3%以上)、10年後から25%以上(同5%以上)の使用を義務付ける見込みです。鉄・アルミ・重要鉱物への目標拡大も検討され、中国でも再生材利用の目標値提示や使用済動力電池の回収責任の明確化が進んでいます。
つまり、使用済自動車の位置付けが「処理すべき廃棄物」から「確保すべき資源」へと転換しつつあるのです。第2章で見た使用済自動車の海外流出は、この文脈では国内の再生材供給基盤が細っていく問題として立ち現れます。実際、自動車向け再生プラスチックについては、2041年以降の供給量目標20万トン/年に対し、ポリプロピレン(PP)の供給ポテンシャルは6.9〜9.5万トンにとどまるという需給ギャップの推計が示されています。
ただし、資源は「確保する」と宣言すれば流れ出すわけではありません。国内の静脈(解体・破砕業者やリサイクラー)は各地に分散し、規模も設備もばらばらです。一方、再生材を求める動脈(自動車メーカーや部品メーカー)は、一定の量・品質・トレーサビリティがそろった素材を安定的に必要とします。この供給側と需要側をつなぐ「場」がなければ、せっかく回収した資源も、量がまとまらず・品質が証明できず・履歴が追えないために、循環に乗り切れません。「資源確保」の次に問われるのは、資源を「つなぐ」仕組み――すなわちプラットフォームをどう築くかです。
報告書案が示す施策群は、実はこの「つなぐ仕組み」の萌芽と読み解けます。
再生プラスチック集約拠点:各リサイクラーで生産される再生プラスチックを全国数か所に集約し、ものづくり産業へ安定供給する構想(「自動車向け再生プラスチック市場構築アクションプラン」)。分散した供給を“束ねるハブ”そのものです。
資源回収インセンティブ制度のコンソーシアム:解体・破砕業者や原材料メーカー等が共同体(コンソーシアム)を組み、メーカーと契約して素材を回収する仕組み(令和8年4月開始)。個社では届かない量・体制を、連携で成立させる“つなぐ器”です。
JARSのトレーサビリティ:令和8年1月に大規模改造された自動車リサイクルシステムが、車台番号単位の装備情報やLiB搭載情報、回収実績を蓄積。素材の履歴を裏付ける“共通の台帳”となります。
これらを一枚の絵にすると、上図(図3)のように、使用済自動車を入口として、静脈側の回収・選別を集約拠点やコンソーシアムで束ね、トレーサビリティで裏付けながら、動脈側の再生材需要へつなぐ――という資源循環プラットフォームの姿が浮かび上がります。欧州ELV規則が求める「自動車由来の再生材」を国内で用意できるかどうかは、まさにこの“つなぐ仕組み”を実装できるかにかかっています。
もっとも、その実装は平坦ではありません。資源回収インセンティブ制度について解体・破砕業者に行われたアンケートでは、制度の認知度は高いものの、参加意向を持つ企業は4割程度にとどまり、とくに地域の中小企業には課題・参入障壁があると報告書案は指摘しています。個々の事業者がコンソーシアムを組成し、契約・情報管理・品質保証まで整えるには、専門的な設計と伴走が欠かせません。なお、ASRになった後の再資源化についても、現状は熱回収が約68%に対しマテリアルリサイクルは約29%(うちプラスチックは約1.5%)にとどまり、先進的なマテリアルリサイクル技術の社会実装はこれからです。ASRになる前の素材回収(インセンティブ制度)と、ASR後のマテリアルリサイクルを一連の流れとして捉え、総合的に資源循環を高度化していくことが求められます。
まとめ──「確保」から「循環」へ、つなぐ仕組みをどう築くか(自動車リサイクル制度見直し)
自動車リサイクル制度見直しは、20年かけて「不法投棄をなくし、適正処理を定着させる」という当初の課題をほぼ達成しました。いま制度が向き合うのは、その次の問いです。
すなわち、
(1)国内で減りゆく使用済自動車と細る担い手のもとで、資源をいかに国内にとどめるか
(2)電動化がもたらす廃LiBの波にどう備えるか
(3)確保した資源を、動脈と静脈をつなぐ「プラットフォーム」に乗せて実際に循環させられるか
──の3点です。
報告書案は、これらの論点について令和8年度から一斉に検討を動かすとしています。廃棄LiBの適正処理体制を議論する作業部会の設置、解体業許可への知識・技能要件の導入準備、資源回収インセンティブ制度の定着・活用促進、再生プラスチック集約拠点の具体化――いずれも、個々の事業者や自治体が「つなぐ仕組み」のどこに位置するのかが問われるテーマです。
制度が固まってから動くのではなく、設計が動いている今こそ、自組織の立ち位置を描いておくことが、次の5年の分かれ目になります。
CYCLETANKがお手伝いできること
環境コンサルティングを手がけるCYCLETANKは、「資源をつなぐ仕組み」づくりを、川上の構想から現場の実装まで一貫して支援します。
廃リチウムイオン電池のプラットフォーム策定(LiBプラットフォームサービス)
使用済LiBの回収ルート設計から、処理事業者とのマッチング、安全管理体制の構築まで、廃LiBに関わる関係者をつなぐプラットフォームづくりを支援します。「共同回収スキーム外の電動車をどう扱うか」「損傷LiBの保管・運搬をどう安全に回すか」といった、これから本格化する課題に、最新の制度動向を踏まえてお応えします。
資源循環プラットフォームの構築・参画支援(サーキュラーエコノミー支援)
資源回収インセンティブ制度のコンソーシアム組成・参画の検討、再生材の調達・供給網の設計、集約拠点構想や循環経済行動計画・改正資源有効利用促進法への対応方針づくりなど、動脈と静脈をつなぐ「場」の構築を支援します。分散した回収を束ね、量・品質・トレーサビリティを備えた再生材へと仕立てる道筋を、貴社・貴自治体の実情に合わせて設計します。
制度の見直し論議が本格化する今のうちに、まずは情報整理や論点の棚卸しからでもお気軽にご相談ください。
参考資料(一次情報)
産業構造審議会イノベーション・環境分科会資源循環経済小委員会自動車リサイクルWG・中央環境審議会循環型社会部会自動車リサイクル専門委員会 第66回合同会議(令和8年6月9日)議事次第・配布資料(環境省) https://www.env.go.jp/council/03recycle/page_00123.html
自動車リサイクル制度の施行状況の評価・検討に関する報告書(案)(同会議 資料3) https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/sangyo_gijutsu/resource_circulation/jidosha_wg/pdf/066_03_00.pdf
「自動車リサイクル制度の施行状況の評価・検討に関する報告書(案)」に対する意見公募要領(e-Govパブリック・コメント、案件番号595226029) https://public-comment.e-gov.go.jp/pcm/detail?CLASSNAME=PCMMSTDETAIL&id=595226029&Mode=0
一般社団法人日本自動車リサイクル機構(JAERA)「自動車解体業界の現状と課題」(産業構造審議会自動車リサイクルWG合同会議 提出資料、令和7年10月)※解体業者の許可者数・引取台数・仕入価格の推移 https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/sangyo_gijutsu/resource_circulation/jidosha_wg/pdf/062_04_00.pdf



