5省庁連携の新ポータル公開──自治体・事業者がいま確認すべきリチウムイオン電池火災対策
- 坂本裕尚
- 2 日前
- 読了時間: 8分
2026年6月18日、消費者庁・経済産業省・国土交通省・環境省・総務省消防庁の5省庁が連携し、「リチウムイオン電池総合対策ポータルサイト」を公開しました。
背景にあるのは、モバイルバッテリーなどを発火源とする事故の急増です。
本記事では、このポータルの全体像を整理したうえで、自治体の環境部門・廃棄物部門のご担当者が特に注目すべき「回収・処理現場の火災リスク」を、最新の消防庁データとともに読み解きます。

1. なぜ今、国は「総合対策ポータル」を立ち上げたのか
まず押さえておきたいのは、このポータルが単発の啓発サイトではなく、省庁横断の対策パッケージの一環として位置づけられている点です。
リチウムイオン電池をめぐっては、これまで製品の安全基準は経済産業省、廃棄・リサイクルは環境省、運搬時の安全は国土交通省、消費者向けの注意喚起は消費者庁、そして消火・火災対応は消防庁と、テーマごとに所管が分かれていました。
電池一つが「製造から廃棄まで」複数の省庁にまたがるため、利用者や事業者から見ると、必要な情報がどこにあるのか分かりにくい状態が続いていたといえます。
こうした状況を踏まえ、5省庁は2025年12月に関連火災の実態調査などを盛り込んだ総合対策パッケージを公表し、その対策の一つに「広報啓発の連携」が位置づけられました。
今回のポータルは、その連携の第一弾にあたります。つまり、これまで分散していた情報を一つの入り口に束ねたこと自体が、今回の大きな前進です。
ポータルの構成は、大きく三層に分かれています。
一般利用者向け:電池の特性(小さくても高エネルギー/衝撃に弱い)と火災の現状、そして事故を防ぐ「3つのC」――買うとき(賢く選ぶ)、使うとき(丁寧に使う)、捨てるとき(正しく捨てる、そして資源循環)
事業者向け:政府の取り組み/製造・輸入・販売時の対策/廃棄時の対策/処理・再利用の対策
関係機関向け:広報用資料、取り組み事例、関係リンク
一般向けの「3つのC」は、住民・従業員への周知にそのまま使える分かりやすい枠組みです。一方で、自治体や事業者のご担当者が「自分の業務として」向き合うべき論点は、この先にあります。
次章では、まず火災の現状をデータで確認します。
2. データで見る──火災はどれだけ増えているのか
消防庁が2026年3月に公表した「リチウムイオン電池等から出火した火災の調査結果(令和7年)」によると、令和7年(1〜12月)のリチウムイオン電池等を発火源とする火災は 1,297件にのぼりました。
推移を見ると、令和4年601件 → 令和5年739件 → 令和6年982件 → 令和7年1,297件と、4年で約2.2倍、前年比でも約32%増という急増ぶりです。
製品別では、モバイルバッテリーが482件と突出しています。前年(290件)から約7割増という伸びで、全体の押し上げ要因になっています。次いで携帯電話機93件、電動工具86件と続きます。
出火原因は製品によって異なり、ここが対策のヒントになります。
モバイルバッテリーは「外部からの衝撃」と「高温下での使用・保管」が上位、携帯電話機は「外部衝撃」と「分解」、電動工具は「非純正バッテリーの使用」が最多でした。落下や夏場の車内放置、安価な非純正品といった、日常のなかの行動が引き金になっていることが分かります。
地域別では、東京都369件、大阪府128件など都市部に件数が集中しています。
人口や製品の流通量を反映したものですが、裏を返せば、自治体ごとに直面する状況の規模が大きく異なるということでもあります。

ここで一点、重要な注意書きがあります。上で紹介した1,297件という数字は、「廃棄されたリチウムイオン電池等を回収中の塵芥車(収集車)およびごみ処理関連施設から出火した火災を除く」ものなのです。では、その除外された分はどうなっているのか――ここからが、自治体のご担当者にとっての本題です。
3.【自治体担当者へ】回収現場の「見えにくい213件」にどう備えるか
公表統計の主表から除外されている塵芥車・ごみ処理施設の火災は、消えてなくなったわけではありません。同じ調査結果のなかに、別建てで集計されています。
その件数は、令和7年で213件。内訳は、塵芥車107件・ごみ処理関連施設106件です。こちらも令和4年161件 → 令和5年171件 → 令和6年180件 → 令和7年213件と、着実に増え続けています。
この数字の意味するところは明確です。住民や従業員が電池を一般ごみに混ぜて出してしまう、あるいは分別ルールを誤る――その「誤分別・異物混入」を起点に、収集・運搬の現場や処理施設の内部で発火が起きているのです。製品を使う人の手元での火災が消費者向けの課題だとすれば、回収現場の213件は、まさに自治体の業務領域で起きている火災といえます。
国全体の発信では一般利用者向けの数字が前面に出るのは自然なことですが、回収・処理を担う自治体の立場からは、この別建てのデータこそ最優先で向き合うべき指標です。

では、自治体として具体的に何ができるか。大きく三つの方向があります。
(1) 住民・排出者への周知を強化する
回収現場の火災は、その多くが排出段階の誤りに端を発します。ここで活用したいのが、ポータルの「関係機関向け」ページです。広報用資料や他自治体の取り組み事例がまとめられており、広報誌・ごみ分別アプリ・収集カレンダー・ホームページなどにそのまま転用できます。一から啓発物を作る必要はありません。
(2) 回収ルートの役割分担を整理する
リチウムイオン電池の回収には、自治体回収のほか、メーカー・販売店による回収、一般社団法人JBRCが設置する回収ボックスなど複数の経路があります。住民が「どの電池を、どこに出せばよいか」を迷わないよう、自治体の回収区分とこれらの経路を整理し、分かりやすく示すことが、誤分別の削減に直結します。
(3) 収集・処理現場の発火対策を見直す
それでも一定の混入は避けられません。だからこそ、収集車の運用や処理施設内の動線・設備について、発火を前提とした備え(早期発見、延焼防止、初期対応の手順整備など)を点検しておくことが重要になります。
背景には、拡大生産者責任の考え方や、資源の有効利用を促す制度的な流れもあります。とはいえ、現場のご担当者にとってまず必要なのは、制度論よりも「今あるリスクを、明日からどう減らすか」という実務です。上記の三つは、いずれも比較的早く着手できる打ち手です。
4.【事業者担当者へ】「事業者の方へ」を使い倒す
自治体に限らず、企業の環境・総務ご担当者にとっても、このポータルは実務の参照先になります。
(2) 製造・輸入・販売時の対策
(3) 廃棄時の対策
(4) 処理・再利用の対策
の4テーマに整理されています。
排出事業者の立場では、まず社内から出る使用済み電池・電池内蔵製品の適正な分別・保管・引き渡しが基本になります。オフィスの一般廃棄物に電池が混ざれば、それは回収現場の発火リスクをそのまま増やすことになります。
製造・輸入・販売事業者の立場では、製品の安全基準への適合や、回収・リサイクルの仕組みづくり、リコール情報の適切な周知などが論点になります。いずれも、ポータルから関連情報や所管省庁の窓口へたどれるようになっています。
リサイクル事業者の立場では、回収された電池を安全かつ効率的に資源化することが問われます。関連して、環境省は「リチウム蓄電池リサイクル設備導入事業」として、放電・破砕・分離等の設備の導入費の一部を補助する公募を実施しています(令和8年度2次公募の受付は令和8年7月24日12時必着)。
リサイクル工程の高度化を検討する事業者にとっては、設備投資の好機といえます。
事業規模や業種によって関わり方は変わりますが、「自社はどの段階の当事者か」を確認する入り口として活用できます。
5. まとめ──ポータルを「入り口」に、次の一手を(リチウムイオン電池火災対策)
今回のポータル公開は、リチウムイオン電池対策において国が本腰を入れ始めたことを示す動きです。一般利用者向けの「3つのC」は分かりやすく、住民・従業員への周知にすぐ使えます。
一方で、自治体・事業者のご担当者にとっての本題は、その先にあります。とりわけ、公表統計の主表からは見えにくい**回収・処理現場の213件**は、自治体の業務領域で現に増え続けているリスクであり、待ったなしの課題です。
CYCLETANK合同会社では、環境コンサルティングの知見を基盤に、リチウムイオン電池の火災防止対策を以下の三つの軸でご支援しています。
- 回収時の対策支援:収集・運搬時の発火リスクに対する運用面・体制面の対策
- 処理施設の対策支援:施設内での発火リスクの低減に向けた現場の点検・対策
- 適正処理体制の構築:排出・分別といった上流から設計する、火災を起こさせない処理体制づくり
これらは個別の防災対策にとどまらず、適正処理・資源循環の専門性に裏打ちされた体制づくりとして、回収・リサイクルの仕組みの最適化にもつなげていくことができます。
「どこから手をつければよいか分からない」という段階からのご相談も歓迎します。
リチウムイオン電池火災対策・適正処理体制について、まずはお気軽にお問い合わせください。



