FIT開始から14年、再エネ政策は「自立化」の新ステージへ
- 坂本裕尚
- 1 日前
- 読了時間: 9分
2026年6月3日、経済産業省・総合資源エネルギー調査会の下に「再生可能エネルギー主力電源化小委員会」が新たに設置され、初会合が開かれました。
2012年の固定価格買取制度(FIT)開始から14年。
日本の再エネ導入を牽引してきた政策の枠組みが、いま大きな転換点を迎えています。
小委員会の設置趣旨(資料1)が掲げる課題は、
① 系統整備や調整力の確保を含む電力市場への統合
② 非FIT / 非FIPでの導入促進
③ 卒FIT後の長期安定稼働
の3つです。
一見すると発電事業者向けの制度論に見えますが、実はこの3つ、企業の再エネ電力調達やGHG排出量算定の実務に直結する論点を多く含んでいます。
本稿では、FIT制度14年を振り返ったうえで、3つの課題の中身と、企業の環境担当者が今から備えておきたいポイントを解説します。

1. FIT制度の14年 ―「量の拡大」の成果とひずみ
FITは、再エネで発電した電気を国が定める固定価格で長期間(事業用太陽光なら20年)買い取ることを電力会社に義務付ける制度です。2011年成立の再エネ特措法に基づき、2012年7月にスタートしました。
その成果は数字に表れています。
総発電電力量に占める再エネ比率は2011年度の10.4%から2024年度には23.1%へとほぼ倍増し、とりわけ太陽光は約20倍に拡大。国土面積あたりの太陽光設備容量は主要国でも最大級の水準に達しました(資料3 p.17)。
一方で、ひずみも蓄積してきました。
買取費用は電気料金に上乗せされる「再エネ賦課金」で賄われており、2026年度の賦課金単価は4.18円/kWh、買取費用の総額は年間約4.9兆円に達する見込みです。その過半は、買取価格が高かった2012〜2014年度に認定された事業用太陽光が占めます(資料3 p.62)。加えて、不適切なメガソーラー開発など地域との共生をめぐる問題も顕在化し、再エネの社会受容性は低下傾向にあります。
導入ペースにも陰りが見えます。
一方で2025年2月に閣議決定された第7次エネルギー基本計画は2040年度に再エネ比率4〜5割程度を掲げており、現状とのギャップは小さくありません。さらに足下では中東情勢の悪化を受けて、燃料費がかからない国産電源としての再エネの価値、すなわちエネルギー安全保障の観点も改めて注目されています(資料4)。
「量の拡大」を実現したFITの功績と限界を踏まえ、再エネを量だけでなく質の面でも進化させて“真の主力電源”にしていく ――これが本小委員会のミッションであり、冒頭の3つの課題はその具体的な論点です。

2. 課題① 電力市場への統合 ―「固定価格で買い取られる電源」からの脱却
1つめの課題は、再エネを電力市場のメカニズムの中で運用される電源にしていくことです。
FITでは発電した電気が固定価格で全量買い取られるため、事業者は市場の需給を意識する必要がありませんでした。これに対し2022年度導入のFIP(Feed-in Premium)は、市場価格に一定のプレミアムを上乗せする仕組みで、需給に応じた発電・蓄電のインセンティブが働きます。FIP認定量は拡大しているものの、FIT/FIP全体に占める割合はまだ約6.6%にとどまります(資料3 p.86)。
市場統合を急ぐ背景には、再エネの出力制御(発電の一時停止)が全国に拡大し、増加傾向にあるという事情があります(資料3 p.94)。太陽光が集中する昼間に電気が余り、せっかくの再エネを捨てざるを得ない場面が増えているのです。政府は2023年12月の「出力制御対策パッケージ」に基づき、蓄電池導入やDR(デマンドレスポンス)、新設火力の最低出力引下げ、地域間連系線の増強といった需要・供給・系統の三方向の対策を進めています(資料3 p.96)。系統面でも、地域間連系線等の計画的整備に向け、託送料金の前倒し回収など資金調達を円滑化する制度対応が具体化しつつあります(資料3 p.103)。
3. 課題② 非FIT/非FIPでの導入促進 ―2027年度、地上設置太陽光が制度を“卒業”
2つめは、国民負担による支援に頼らない導入、すなわち再エネの「自立化」です。
昨年度の調達価格等算定委員会では、FIT/FIPで支援対象となっている全電源について将来的な自立化を目指す方針が明確化されました。その象徴的な決定が、事業用太陽光(地上設置)を2027年度以降、FIT/FIP制度の支援対象外とするというものです(資料3 p.65-66)。技術革新によるコスト低減が進み、入札で上限価格を下回る落札が続いていること、PPAによる収益確保などFIT/FIPによらない案件形成が現れていることが理由です。
注意したいのは、これは2027年度以降の「新規案件」が対象外になるという意味で、既に認定を受けた案件の買取がなくなるわけではない点です。また、屋根設置など地域との共生が図られた太陽光は引き続き促進する方針で、支援を重点化する対象は来年度に検討されます(資料3 p.66)。
実際、非FIT/非FIPでの導入はすでに動き始めています。系統接続済容量からの推計では、FIT/FIPによらない太陽光の導入量は2024年度で約0.8GW。その大部分を占めるのが、自家消費やオンサイト/オフサイトのコーポレートPPAです(資料3 p.21-22)。
ただし、自立的な投資を支えるインフラには課題も残ります。
再エネの環境価値を取引する非化石価値取引市場(非化石証書)では約定価格が下限に張り付く状況が続いており、制度改善が議論されています(資料3 p.78)。初会合でも委員から「コーポレートPPAはファイナンス確保に寄与しており、非化石価値取引市場の課題解決とあわせて拡大のための環境整備を」との声が上がりました(議事要旨)。需要家企業の立場から見れば、これは「FITで作られた再エネを買う」時代から、「需要家が電源をつくらせる」時代への移行を意味します。

4. 課題③ 卒FIT後の長期安定稼働 ―迫る「2032年問題」
3つめは、買取期間を終えた後も発電設備を長期安定的に動かし続けるための仕組みづくりです。
住宅用太陽光(買取期間10年)では2019年11月以降すでに「卒FIT」が始まっていますが、本丸はこれからです。事業用太陽光(買取期間20年)は、FIT初年度の2012年度認定分から、2032年度以降に調達期間の終了が本格化します(資料3 p.57)。固定価格による収入を失った設備が稼働を止めたり放置されたりすれば、再エネ比率の目標達成が揺らぐだけでなく、地域の安全・環境面のリスクにもなりかねません。
政府は先手の環境整備を進めています。2025年4月には、適切な保守管理や地域共生に取り組む事業者を国が認定する「長期安定適格太陽光発電事業者」制度が始まり、すでに3者が認定・公表されました。あわせて事業計画策定ガイドラインを改訂し、定期報告の精緻化や悪質事業への交付金一時停止など、事業規律の強化も並行して進んでいます(資料3 p.57)。
【コラム】太陽光パネルの「出⼝」も制度化へ ―太陽電池再資源化法が成⽴ ⻑期安定稼働とセットで避けて通れないのが、使⽤済みパネルの廃棄‧リサイクルです。2026年5⽉29⽇、「太陽電池廃棄物の再資源化等の推進に関する法律」が成⽴しました。 国内では2030年代後半以降、太陽光パネルの排出量が顕著に増加し、年間最⼤50万t程度に達すると⾒込まれています。(経済産業省・法律案閣議決定時の公表資料) 新法のポイントは、
の3点です。 施⾏は公布から1年6か⽉以内とされており、対象事業者は早めの準備が求められます。 |
5. 企業の環境担当者はどう備えるか ―再エネ政策の4つのチェックポイント
ここまでの3つの課題は、企業の実務には次の形で跳ね返ってきます。
再エネ調達戦略の再点検 2027年度以降、地上設置太陽光の新規FIT/FIP案件は生まれなくなります。追加性ある再エネの確保はコーポレートPPAや自家消費が主軸となり、優良な電源・適地をめぐる競争は強まる可能性があります。PPAは供給開始まで時間を要するため、早めの着手が肝心です。
自家消費・屋根設置の検討 屋根設置太陽光は地域共生型として政策的な後押しが続く見通しです。燃料価格・市場価格の変動を踏まえれば、自家消費型の再エネは脱炭素とコストヘッジを両立する選択肢になります。
保有FIT設備の棚卸し 自社・グループでFIT認定設備を保有している場合は、調達期間の終了時期を一覧化し、終了後の継続稼働・売却・更新(リプレース)の方針を整理しておきましょう。再資源化法の施行をにらんだ廃棄・リサイクル費用の見立ても欠かせません。
環境価値・算定ルールのウォッチ 非化石証書の価格見直しは証書調達コストやPPAの価値配分に影響します。さらに、Scope2算定の国際ルールであるGHGプロトコルの改訂が議論されており、再エネ調達方法ごとに「主張できる削減価値」が変わる可能性があります。
3つの課題と政府の対応‧企業実務への影響
課題 | 何が起きているか | 政府の主な対応 | 実務への影響 |
①電⼒市場への統合 | 出⼒制御が全国に拡⼤‧増加傾向。 FIP移⾏は進むが全認定量の約6.6% | 出⼒制御対策パッケージ(蓄電池‧DR‧⽕⼒最低出⼒引下げ)、FIP促進、系統整備と資⾦調達の円滑化 | 昼間の市場価格低下‧出⼒制御はPPAの経済性評価に影響。蓄電池併設型など新たな調達形態も視野に |
②⾮FIT/⾮FIPでの導⼊促進 | 地上設置の事業⽤太陽光は2027年度以降FIT/FIP対象外。⾮FIT太陽光は年約0.8GWに拡⼤ | 全電源の⾃⽴化⽅針の明確化、コーポレートPPAの環境整備、⾮化⽯価値取引市場の⾒直し検討 | 追加性ある再エネ調達はPPA‧⾃家消費が主軸に。証書価格‧制度⾒直しの継続ウォッチが必要 |
③卒FIT後の⻑期安定稼働 | 2032年度以降、事業⽤太陽光の買取期間終了が本格化 | ⻑期安定適格事業者認定、ガイドライン改訂、事業規律強化、太陽電池再資源化法(2026年5⽉成⽴) | 保有FIT設備の棚卸し(継続‧売却‧更新)、パネル廃棄‧リサイクル義務への備え |
おわりに ―制度の転換点を、調達戦略の好機に
FITという「育成期」の制度が役割を終えつつある一方、それに代わる市場・調達インフラはまだ整備の途上にあります。
裏を返せば、この再エネ政策の移行期にいち早く調達戦略を組み立てた企業ほど、コスト・環境価値の両面で有利なポジションを取れるということでもあります。
CYCLETANKでは、脱炭素計画の策定支援をはじめ、コーポレートPPA・自家消費・証書購入を組み合わせた再エネ調達戦略の検討、保有FIT設備の出口戦略の整理まで、企業の環境部門に伴走するご支援を行っています。
「2027年度以降の再エネ調達をどう組み立てるべきか」
「自社に最適な調達ミックスを知りたい」
といったお悩みがありましたら、ぜひお気軽にお問い合わせください。
参考資料
1. 再生可能エネルギー主力電源化小委員会(第1回)開催ページ(経済産業省) https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/saiene_shuryoku/001.html
2. 資料1「再生可能エネルギー主力電源化小委員会の設置について」 https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/saiene_shuryoku/pdf/001_01_00.pdf
3. 資料3「再エネ主力電源化に向けた今後の再生可能エネルギー政策について」 https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/saiene_shuryoku/pdf/001_03_00.pdf
4. 資料4「三菱総合研究所 説明資料」 https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/saiene_shuryoku/pdf/001_04_00.pdf
6. 「太陽電池廃棄物の再資源化等の推進に関する法律案」閣議決定(経済産業省, 2026年4月3日) https://www.meti.go.jp/press/2026/04/20260403002/20260403002.html
7. GHGプロトコルの改訂について(経済産業省 LCA・CFPページ) https://www.meti.go.jp/policy/energy_environment/global_warming/LCA_CFP/LCA_CFP.html
8. エネルギー基本計画(第7次/資源エネルギー庁) https://www.enecho.meti.go.jp/category/others/basic_plan/



