2026年4月、排出量取引が「義務」に──GX-ETSとは… 企業の環境担当者が動くのはいま
- 坂本裕尚
- 24 時間前
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2026年4月1日、改正GX推進法が施行され、国内の排出量取引制度「GX-ETS」が新しいフェーズに入りました。
これまで「手を挙げた企業が参加する」自主的な制度だったものが、一定規模以上の排出事業者にとっては「参加しなければならない」義務へと変わります。
対象となるのは限られた大規模事業者ですが、影響はサプライチェーン全体に及びます。
「自社は対象外だから関係ない」と考えるのは早計です。本記事では、企業の環境担当者がいま押さえるべきポイントと、2026年度中にやるべきことを整理します。

1. そもそもGX-ETSとは──排出に「値段」がつく仕組み
GX-ETSは、企業のCO2排出量に上限(排出枠)を設け、その過不足を市場で取引できるようにする国内の排出量取引制度です。
割り当てられた排出枠より実際の排出が少なければ余剰分を売却でき、超過すれば不足分を市場で調達する必要があります。排出を減らすほど経済的に有利になる──つまりCO2に価格をつけることで削減投資を促す「カーボンプライシング」の中核に位置づけられています。
2023年度から続いてきた第1フェーズは、「GXリーグ」に参加する企業が自主的に取り組む試行段階でした。
これが2026年度からの第2フェーズで、ルールに基づく「義務」へと姿を変えます。
◇排出量取引制度、GX-ETSとは

なお、排出枠が不足する場合でも、Jクレジットや二国間クレジット(JCM)を排出実績の10%まで充当できる仕組みも用意されています。
2. 第2フェーズで何が「義務」になるのか
第2フェーズの対象は、国内のCO2直接排出量が直近3カ年度平均で10万トン以上の事業者です。
該当するのは全国で300〜400社程度、日本の温室効果ガス排出量の約6割をカバーすると見込まれています。電力・鉄鋼・化学・セメントといった多排出産業が中心です。
ここで注意したいのは、ふだんサステナビリティ報告などで行っている「GHG算定」と、GX-ETSのルールが似て非なるものだという点です。
主な違いを整理しました。
項目 | 一般的なGHG算定 | GX-ETS:第2フェーズ |
対象 | 自主開示・取引先からの要請など | 国内CO2直接排出量が3カ年平均10万t以上の事業者 |
対象ガス | すべてのGHG(CO2・CH4・N2O等) | 国内のエネルギー起源・非エネルギー起源CO2のみ |
排出範囲 | Scope1・2・3 | 国内のScope1(直接排出)のみ |
算定期間 | 各社の事業年度(例:1〜12月) | 4月〜翌3月(一律) |
少量排出の除外 | 一定規模未満は対象外などの除外規定あり | 除外の概念なし。原則すべての直接排出源を合算 |
運営主体 | 環境省・各種国際イニシアチブ | GX推進機構(経済産業省主導) |
第三者確認 | 任意(現地審査を行うことも) | 登録確認機関による確認が必須(現地審査は必須ではない) |
保証水準 | Scope1・2は合理的保証など | 当面は限定的保証(将来的に合理的保証へ) |
特に見落としやすいのが「算定期間」と「少量排出の扱い」です。
一定の企業はGHG算定を暦年(1〜12月)で行っているかもしれませんが、GX-ETSは4月〜翌3月で再計算する必要があります。
また、GHGプロトコルのような「重要性の低い排出源は除外できる」という考え方は通用せず、国内のすべての直接排出源を網羅しなければなりません。
3. 制度の全体像──2026・2027・2033年、3つの節目
GX-ETSは段階的に強化される設計です。大きな節目は3つあります。
2026年度:第2フェーズ稼働。対象事業者に排出枠が無償で割り当てられ、参加が義務化
2027年度(秋・11月予定):GX推進機構が排出枠取引市場を開設
2033年度:発電事業者を対象に、排出枠の一部を有償オークション(入札)で割り当てる第3フェーズへ

加えて2028年度には化石燃料賦課金の導入も予定されており、GX-ETSと合わせて「GX経済移行債20兆円」の償還財源として機能します。
脱炭素に向けた国の大きな枠組みの一部であることがわかります。
気になる排出枠の価格は、2026年度の参考水準として上限4,300円/t-CO2、下限1,700円/t-CO2が示されています。上限価格は燃料転換コストの水準、下限価格は省エネJクレジットの価格を参照して決められました。
そして見過ごせないのが履行義務です。
対象事業者は、確認を受けた毎年度の排出実績と同量の排出枠を翌年度の1月31日までに保有しなければなりません。これを満たせない場合は、不足分に上限価格の1.1倍を乗じた額の支払いが求められます。排出枠の調達は、コストとして経営に直結するテーマになります。
補足|排出枠はどうやって決まる? 割当方式は主に2つです。 ベンチマーク(BM)方式は、製品の生産量あたりのCO2排出原単位を業種内で比較し、効率の高い水準を基準に枠を割り当てる方法で、省エネが進んだ事業者ほど有利になります(エネルギー多消費業種が中心)。 一方、BMの設定が難しい業種にはグランドファザリング(GF)方式が使われ、過去の排出実績に一定の削減率(エネルギー起源で年1.7%)を掛けて枠を決めます。 いずれも基準は2023〜2025年度の実績を起点とし、毎年度水準を引き下げていきます。業種別の詳細な指標は現在も最終調整が進められています。
4. 環境担当者がいま「やるべきこと」
では、2026年度に具体的に何をすべきか。対象事業者がまず取り組むのは、9月30日までの届出です。
次の2点を準備したうえで、制度対象である旨を届け出ます(この時点では第三者認証は不要)。
直近3年度の平均排出量の算定: 暦年ではなく、4月〜3月の期間で再計算する必要があります。
移行計画の策定: 2030年度までの削減目標を含む計画。直接排出(Scope1)だけでなく、間接排出(Scope2)の見通しも求められます。
その後のスケジュールは下記の通りです。
時期 | やること |
2026年4月〜 | CO2排出量の計測・算定を開始(4月〜翌3月) |
2026年9月30日 | 制度対象の届出(①3カ年平均排出量 ②移行計画)※認証不要 |
2027年9月30日 | 26年度の排出目標量・実績量を届出 ※第三者認証が必要 |
2027年秋(11月予定) | 排出枠取引市場が開設、排出枠の割当 |
2028年1月31日 | 26年度分の排出枠を償却(保有義務の履行) |
実務面では、届出・報告・排出枠の管理を行う専用システム「ERMS」を使うため、GビズIDの取得とアカウント開設が出発点になります。
あわせて、登録確認機関による確認に備え、早めに委託先を選定しておくことが望まれます。確認業務を担える機関は限られており、対応が後ろ倒しになるほどリソース確保が難しくなるためです。
なお、現時点で排出量が年8万〜10万トンと「境界線上」にある事業者も油断はできません。事業の拡大で翌年度以降に対象となる可能性があるため、いまのうちから4月〜3月ベースでの算定体制を整えておくと安心です。
5. 対象でなくても「移行計画」が問われる時代に
ここまで対象事業者を中心に説明してきましたが、第2フェーズの本質は「CO2排出にコストがかかる時代が本格的に始まった」ことにあります。対象企業が負担する炭素コストはサプライチェーンを通じて取引価格に反映され、調達先・納入先である中堅・中小企業にも波及していきます。
日本の温室効果ガス排出量は2024年度に9.9億トンまで減少し、2013年度以降で初めて10億トンを下回りました。着実に削減は進んでいますが、ここから先は「これまでの延長」だけでは難しく、設備投資・燃料転換・再エネ調達・資源循環といった次の一手が問われる局面に入っています。
その出発点となるのが、自社の排出構造を正確に把握し、実現可能で説得力のある脱炭素計画(移行計画)を描くことです。
GX-ETSの対象企業にとっては義務であり、対象外の企業にとっても、取引先や金融機関からの要請に応える「備え」になります。
CYCLETANKがお手伝いできること
CYCLETANK合同会社では、企業の脱炭素計画策定を支援しています。
排出量の算定・可視化から、2030年・2050年を見据えた削減目標の設定、省エネ・再エネ・燃料転換・資源循環を組み合わせた実行計画の立案まで、GX-ETSをはじめとする制度対応を見据えてご一緒します。
「何から手をつければよいかわからない」「移行計画の作り方に自信がない」といった段階からのご相談も歓迎です。
制度の波を負担ではなく、競争力へと変える一歩を、一緒に踏み出しませんか。
主な参考・出典



