PFAS規制の拡大 ~「製造禁止」フェーズへ ~
- 坂本裕尚
- 4 時間前
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長鎖ペルフルオロカルボン酸(LC-PFCA)規制と、2026年11月までに企業が備えること
2026年5月、PFAS規制が新しい局面に入りました。「長鎖ペルフルオロカルボン酸(LC-PFCA)」とその関連物質などが化審法の第一種特定化学物質に指定され、製造・輸入が原則禁止となります。施行は2026年11月22日。水質基準による“出口”管理の強化に続き、今度は製造・輸入という“入口”そのものを断つ規制です。本稿では、改正の中身と、自社が11月までに確認すべきことを整理します。

1. PFAS規制は「管理」から「禁止」のフェーズへ(PFAS規制の拡大)
PFAS(有機フッ素化合物)は、撥水・撥油性や耐熱性に優れ、半導体製造から泡消火薬剤まで幅広い用途を支えてきました。一方で「分解されにくい」という有用な特性こそが環境中での高い残留性をもたらし、いまや「永遠の化学物質(Forever Chemicals)」として世界的な汚染問題の中心になっています。
PFASは1万種を超えるとされる巨大な物質群で、規制はまず代表的な長鎖物質から段階的に進んできました。PFOS・PFOAに続き、PFHxS(2022年のCOP10で廃絶対象に決定)、そして今回のLC-PFCAへと、規制のフロントは着実に広がっています。
LC-PFCAは、炭素数9〜21の長鎖ペルフルオロカルボン酸を指します。今回の規制では、この酸とその塩(「LC-PFCAとその塩」)、および後述のLC-PFCA関連物質が指定対象になります。2025年4〜5月に開催された残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約(POPs条約)第12回締約国会議(COP12)で、附属書A(廃絶)への追加が決定されました。
これを国内で担保するのが、今回の化審法施行令の改正です。
第一種特定化学物質とは 難分解性・高蓄積性があり、人や高次捕食動物への長期毒性を持つ化学物質。 指定されると、製造・輸入が原則禁止となり、使用の制限や政令指定製品の輸入禁止の対象になります。PCBやPFOSなどが代表例です。

2. 改正の全体像 ── 政令で「枠」、三省省令で「中身」を決める
今回の規制でまず押さえたいのは、性格の異なる2本の法令が並行して動いていることです。
観点 | 政令(化審法施行令の改正) | 三省省令(厚労省・経産省・環境省令) |
役割 | 4物質群を第一種特定化学物質に「指定」(規制の枠) | 「LC-PFCA関連物質」の個別物質(156物質)を定義(中身) |
状況 | 公布済(2026年5月22日) | パブリックコメント実施中(2026年6月〜) |
今後 | ― | 2026年9月以降に公布予定 |
施行 | 2026年11月22日 | 2026年11月22日(同日施行) |
つまり、「LC-PFCA関連物質」という“入れ物”は政令で確定し、その中に入る個別の物質(156物質)は三省省令で定義する、という二段構えです。
政令は公布済みで施行日も確定していますが、関連物質の具体リストはパブリックコメントを経てこれから固まります。
なお今回の政令では、LC-PFCAと同じくCOP12で廃絶対象となったMCCP(中鎖塩素化パラフィン)、およびクロルピリホス(有機リン系殺虫剤)も同時に第一種特定化学物質に指定されています。
ここで重要なのが「関連物質」という考え方です。
これは、それ自体がLC-PFCAでなくても、環境中の自然な変化によってLC-PFCAを生成する“前駆体”までを規制対象に含めるものです。
「親物質さえ使わなければよい」では済まない、という点が実務上の注意点になります。

3. 自社のどこに効くか ── 「潤滑油」と「消火薬剤」が入口
「PFASは自社には関係ない」と感じる担当者は少なくありません。しかし今回の政令は、規制がかかる具体的な製品を名指ししています。
区分 | 対象物質 | 対象製品 |
輸入禁止 | LC-PFCAとその塩/LC-PFCA関連物質/MCCP | 潤滑油 等 |
輸入禁止 | クロルピリホス | 木材用の防虫剤 |
取扱基準の遵守(当分の間) | LC-PFCAとその塩/LC-PFCA関連物質 | 消火器、消火器用消火薬剤、泡消火薬剤 |
特に注意したいのが「意図せぬ含有」です。自社が直接PFASを扱っていなくても、調達した潤滑油や消火設備、部材に含まれているケースがあります。サプライチェーンを遡って含有の有無を確認する作業は、施行までに時間を要するため、早めに着手しておく必要があります。
あわせて押さえておきたいのが、出口側でも規制が強化されている点です。
2026年4月には水道法が改正され、PFOS・PFOAが努力義務から法的義務の「水質基準項目」へ格上げされました。製造・輸入を断つ“入口”(化審法)と、環境中の濃度を管理する“出口”(水道法)の両面で網が狭まっている ── これが2026年のPFAS規制の拡大の全体像です。
4. なぜ日本は「この設計」なのか ── 数と値のトレードオフ
欧米が予防原則のもとで網羅的・厳格な数値規制へ進むのに対し、日本は「確認された科学的事実」に基づいて規制を組み立てる、エビデンス重視のアプローチをとっています。
1万種すべてを一律に追うのではなく、市場で実際に流通する物質や前駆体に対象を絞り込む。今回のLC-PFCA規制で「関連物質=前駆体」まで含めたのも、この考え方の表れといえます。
ただし、化審法はもともと“物質単位”での管理を前提とし、蓄積性を重視する制度です。PFASのように物質群として広範に拡散する化学物質を扱ううえでは、制度的な工夫が続いている分野でもあります。
担当者の立場では、「いま指定された物質」だけを見るのではなく、今後さらに対象が広がりうる前提で含有情報を管理しておくことが、結果的に最も確実な備えになります。
(こうした規制思想の論点は、弊社坂本裕尚が専門誌『環境管理』に寄稿した論考でも詳しく論じています。)
5. 2026年11月に向けて ── いま着手すべき3つのこと
施行まで残された時間で、企業が進めておきたいのは次の3点です。
含有調査(棚卸し) 自社製品・調達品・設備(特に潤滑油、消火器・泡消火薬剤)にLC-PFCAや関連物質が含まれていないかを、サプライヤーへの確認も含めて把握する。
代替への切り替え 該当があれば、施行日(2026年11月22日)に向けて代替品・代替技術への移行計画を立てる。
廃棄ルートの確保 第一種特定化学物質を含む廃棄物は、適正処理のハードルが高い分野です。PFAS含有廃棄物の処理では、分解効率99.999%以上、約1,000℃以上(推奨は約1,100℃以上)での焼却といった厳格な基準が設定されています(PFOS・PFOAの例)。確実に無害化できる処理先を、あらかじめ確保しておく必要があります。
PFAS対応は、「使わない」だけでは完結しません。
「何が・どれだけ含まれているかを知る(含有情報の管理)」ことと、
「該当物を確実に無害化する(適正処理)」ことをセットで進める ── これが、規制が拡大し続けるなかで最も確実な防衛策になります。
坂本裕尚
CYCLETANKがお手伝いできること
「うちは関係あるのか」
「何から手をつければいいのか」── PFAS規制への対応は、含有実態の把握から代替検討、確実な処理ルートの確保まで、専門的な判断を要する場面が多くあります。
CYCLETANK合同会社では、化学物質規制への対応支援と、第一種特定化学物質をはじめとする廃棄物の適正処理を一貫してご支援しています。LC-PFCA規制への備えや、潤滑油・消火薬剤など対象製品の取り扱いでお困りの際は、お気軽にご相談ください。
参考・出典
環境省 報道発表資料 「化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律施行令の一部を改正する政令の閣議決定について」(2026年5月19日) https://www.env.go.jp/press/press_04704.html
3省合同会合(化学物質審査小委員会等)資料 https://www.env.go.jp/council/05hoken/yoshi05-01.html
(関連)産業環境管理協会 機関誌 『環境管理』 坂本裕尚「PFAS類におけるリスク評価の現状と規制の転換点── 2026年問題と日本独自の戦略」
