フォーラムから見えたサーキュラーエコノミーを動かす 5つのヒント
- 坂本裕尚
- 1 日前
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更新日:16 時間前
2026年8月6日、東京・大手町で「第2回資源循環自治体フォーラム」が開催されました(環境省ほか5者共催、東京都「サーキュラーシンポジウム」併催)。
内閣府(地方創生)、消費者庁、総務省、農林水産省、経済産業省、国土交通省が一堂に会し、経団連、日本政策投資銀行(DBJ)、脱炭素化支援機構(JICN)が続く。府省庁の縦割りを越えて同じ壇上に並んだこと自体が、今回のメッセージでした。

本記事は、当日の講演と公開資料から、サーキュラーエコノミーを動かす、取り組む方に持ち帰っていただきたい5つのヒントを抜き出したものです。参加されなかった方にこそ、読んでいただく価値があると考えています。
なお、この5つは独立した豆知識集ではありません。
ヒント1〜3が「なぜ取組が止まるのか」という診断
ヒント4〜5がその処方箋 という関係にあります。
行政・研究者・金融機関という立場の異なる登壇者が、別々の切り口から同じ結論に到達していた——その線をたどる構成です。
はじめに:なぜ今、このテーマなのか
背景にあるのは、2026年4月21日に循環経済に関する関係閣僚会議(第4回)で決定された「循環経済行動計画」です。官房長官をヘッドとするこの会議で、循環経済への移行は関係府省庁の共同の課題として位置づけられました。
柱 | 内容 |
1 | 再生資源供給サプライチェーンの強靱化(重要鉱物、金属資源等) |
2 | 日本をハブとする国際資源循環ネットワークの構築 |
3 | 地域循環資源の徹底活用による地域活性化 |
4 | 資源循環分野の国際ルール形成 |
5 | 循環経済を国民運動に |
環境省の角倉一郎 環境再生・資源循環局長は基調講演で、この転換の理由を国際情勢に求めました。EUは廃電子機器の域外輸出規制を強化し、バッテリー製造時の再生材利用義務化(2031年〜)に進む。米国は国内発生の高品質銅スクラップの一部を2027年から国内販売義務付けとし、中国は2024年に国策企業「中国資源循環集団」を設立した。各国が二次資源の囲い込みに動いている、という認識です。
対する日本は、年間で鉄スクラップ771万トン、銅スクラップ42万トンなどが海外へ流出し、廃プラスチックの約8割にあたる約709万トンが焼却・埋立に回っています。静脈企業の売上規模も、欧州ヴェオリア約7.3兆円、米国ウェイスト・マネジメント約3.3兆円に対し、日本のDOWAは約6,800億円。技術力ではなく事業規模に開きがある、という指摘です。
■ 本記事の情報の位置づけ ■ 確定事項:循環経済行動計画の決定(2026年4月21日)、太陽電池廃棄物の再資源化等の推進に関する法律(令和8年5月29日成立・6月5日公布)、廃棄物処理法等の改正(スクラップヤードへの許可制導入等) ■ 検討・進行中:再生プラスチック利用率の段階的な数値義務化(令和10年度までに検討)、循環資源の海外流出抑制策の追加措置 ■ 本記事の性格:当日の講演および公開資料に基づく整理です。数値は各府省庁の公表資料をご確認ください。 |
ヒント1|5つのボトルネックのうち、技術の話は1つだけ
では、なぜ日本では循環資源が国内で回らないのか。環境省は関係閣僚会議の資料で、次の5点を「我が国資源循環の主なボトルネック」として整理しています。
ボトルネック | 内容 | |
1 | 公正な競争環境の未整備 | 不適正スクラップヤード問題と、不透明な商流や海外輸出ルートの存在により、公正な競争環境が損なわれている |
2 | 原料となる循環資源が集まらない | 循環資源は薄く広く不定期に発生し、回収率が伸び悩む。経済合理性に基づき金属資源は海外流出・埋立、プラスチックは焼却が優位 |
3 | リユース・リサイクル技術等が未成熟 | 製造業が使いこなせる品質を供給できる技術やインフラ等が未成熟 |
4 | 再生材需要・市場が未形成 | 需要を創出するルールやインセンティブが不足し、再生材の利用価値が未浸透 |
5 | 資源循環ビジネスの事業性が未確立 | 産業競争力が弱く、規模拡大・高効率化に向けた投資が進まない |
出典:循環経済に関する関係閣僚会議(第4回)令和8年4月21日 資料3
技術の話は3番だけです。残りの4つは、ルール・商流・市場・投資といった「仕組み」の問題として整理されています。国はこれらへの対処を通じて「自律性」(他国・地域に過度に依存しない経済社会構造)と「不可欠性」(重要技術等における優位性)の向上を目指すとしています。
■ 持ち帰り 自社・自地域の取組が止まっているとき、原因を技術に求めていないか。国の診断では、壁の8割は仕組みの側にある。 |
ヒント2|勝負は「どう処理するか」より「どう集めるか」で決まる
基調講演に立った細田衛士先生(東海大学学長補佐・政治経済学部教授、慶應義塾大学名誉教授)は、この構造をより鋭く言語化しました。
細田先生は、使用済製品・部品・素材のように資源ポテンシャルを持つものを「静脈資源」と呼びます。そのうえで指摘したのが、天然資源との決定的な違いです。
天然資源は鉱床のように密に固まって存在する。これに対して都市鉱山・都市油田はまばらに、薄く広く、不定期に発生する。つまり静脈資源の回収とは「薄いものを厚くするプロセス」であり、ここに効率的な仕組みがなければ、どれだけ優れた再資源化技術があっても原料が届きません。
その解決策として提唱されたのが「ディマンド(回収)ネットワーク」——優良なリサイクラーのプラントに静脈資源が安定的に集まるルートを設計するという考え方です。容器包装リサイクル法やプラスチック資源循環法に基づく一括回収も、この一形態にあたります。
主張は二段構えでした。個別リサイクル法が既に持つ回収ルートを十分に活用すること。そして法がカバーしない領域についても、国内の回収ルートを新たに形成すること。いずれも市区町村と回収業者、動脈企業と静脈企業、異業種間といった多様な主体の「共創(コクリエーション)」なしには成り立たない、と細田先生は述べます。ハードロー(法令)とソフトロー(自主的な規範)が重なり合う共創的な静脈プラットフォームが求められる、という提起でした。
■ 持ち帰り 再資源化の技術検討より前に、「そもそも安定的に集まるのか」を検証する。回収設計はコストではなく、事業の成否を決める変数である。 |
ヒント3|三すくみ ― 全員が相手の出方を待っている
三つ目のヒントは、金融機関の側から示されました。DBJの布施健 サステナブルソリューション部長は、資源循環ビジネスの事業化を阻む要因を、現場の声として整理しています。
排出事業者・自治体
「廃棄物は存在するが、種類・品質・発生量が十分に把握されておらず、どの用途に、どの程度供給できる資源なのか判断できない」
廃棄物処理会社・リサイクラー
「品質向上には設備投資が必要だが、将来の需要量や引取条件が見通せず、投資判断や投資回収の予見性を確保できない」
再生材の活用を検討する需要家
「量産期間を通じて必要な量・品質を安定的に確保できるか見通せない」
読んで気づくのは、三者とも「相手が動かないと自分は動けない」と言っていることです。排出側は出口が見えないから供給判断ができず、処理側は需要が見えないから投資判断ができず、需要側は供給が見えないから採用判断ができない。

DBJはこれを、原材料・品質の変動、再生材とバージン材の価格差、品質保証・責任範囲の曖昧さ、設備投資・回収リスク、需要の不確実性、関係者間の情報不足という6つの構造的課題として整理し、次のように結論づけました。
資源循環の事業化を阻む本質的な課題は、個別技術の不足だけでなく、原料・需要・品質・価格・リスク分担が相互に依存し、サプライチェーン全体の予見可能性が低いことにある。
細田先生の「共創が必要」という提起を、金融の側から裏づける診断です。一者では全体を設計できない構造だからこそ、顔を合わせて条件をすり合わせる場に意味がある。本フォーラムがマッチングの場として設計されている理由もここにあります。
■ 持ち帰り 取組が進まないのは、相手に熱意がないからではない。相手も同じ理由で待っている。三すくみは構造であり、精神論では解けない。 |
■ CYCLETANKのサーキュラーエコノミー支援 「うちにどんな資源が、どれだけ、どの品質で出ているのか」——三すくみを解く最初の一手は、この棚卸しです。CYCLETANKでは、未利用資源の実態把握から資源ポテンシャルの評価、想定される出口(需要家)の探索までを一体で支援しています。自治体のCEビジョン策定、企業の資源循環スキーム検討のいずれにも対応します。
ヒント4|分別は細かいほど良いとは限らない
診断が揃ったところで、では何から着手するか。細田氏が講演の締めくくりに置いたのが「逆解(ぎゃっかい)の発想」でした。
従来の発想は、排出されたものをどう処理するかという「入口起点」です。これを反転させ、動脈企業がどのような再生資源を必要としているかを起点に、そこから逆算してリサイクルのタイプを決め、それに合わせて回収拠点・分別方法・静脈物流を設計する。
これが実務上どれほど意味を持つかは、同じ廃プラスチックでも出口が変われば必要な分別レベルが変わる、という例を見れば分かります。
出口(需要家) | リサイクル手法 | 必要な選別 | 回収方法 |
自動車メーカー | マテリアルリサイクル | 高度な機械選別 | 混合回収 |
食品容器メーカー | ケミカルリサイクル | 簡素な機械選別 | 分別回収 |
素材メーカー(アンモニア等) | ケミカルリサイクル | 簡素な異物除去 | 混合回収 |
出典:細田衛士先生 講演資料をもとに作成

つまり、「とりあえず分別を細かくする」が常に正解とは限りません。出口が決まっていなければ、過剰な分別コストをかけている可能性も、逆に必要な品質に届いていない可能性もあります。地域ごとに最適解は異なる、という細田先生の指摘はこの意味です。
実例として紹介された「瀬戸内資源循環プロジェクト」は、小売店舗のポリスチレン食品容器が、オガワエコノス(回収・選別・加工)、CFP(ケミカルリサイクル)、太陽石油、旭化成、PSジャパン、シーピー化成を経て、再び容器として小売店舗に戻る水平リサイクルです。出口の企業まで含めて連鎖が組まれているからこそ成立しています。
■ 持ち帰り 分別のレベルは、出口が決めるもの。出口を決めずに分別を設計すると、過剰コストか品質不足のどちらかになる。 |
ヒント5|予見可能性は、相手ではなく自分の側から上げる
三すくみは、誰かが先に情報を出すことでしか解けません。フォーラムの議論を踏まえると、着手点は次のように整理できます。
自治体の環境部門
域内の未利用資源を棚卸しする(種類・品質・発生量に加え、季節変動まで)
庁内の担当部署間で情報を共有する(環境/産業振興/企画)※経済産業省が自治体への期待として明示した項目です
域内の静脈企業の処理能力・受入条件を把握する
近隣の動脈企業の再生材ニーズを把握し、出会いの場をつくる
企業の環境・調達部門
排出物をデータ化する(種類・品質・量・発生タイミング)
「どの用途になら供給できるか」の仮説を持って相手と話す
引取条件・品質保証・不具合時の責任分担を、価格と並ぶ交渉議題として扱う
単年度ではなく複数年の見通しを示し、相手の投資判断を可能にする
いずれも、相手が動くのを待つのではなく、自分の側の予見可能性を先に上げるという点で共通しています。環境省が自治体に期待する「地域の資源循環のマネージャー兼コーディネーター」という役割も、突き詰めればこの機能を指しています。
■ 持ち帰り 先に情報を出した側が、条件設計の主導権を握る。棚卸しは相手のためではなく、自分の交渉力のために行う。 |
おわりに(サーキュラーエコノミーを動かす5つのヒント)
今回のフォーラムが示したのは、資源循環が「環境部門が単独で担う仕事」ではなくなったという事実です。
産業政策であり、経済安全保障であり、地方創生であるがゆえに、府省庁が一つの場に並び、金融機関が事業構造の設計から関与する。5つのヒントが共通して指し示したのは、足りないのは技術ではなく、出口から逆算した設計と、それを支える予見可能性だということでした。この設計は、一者だけでは描けません。
■ 資源循環スキームの設計を、伴走します CYCLETANKは、環境コンサルティングの立場から自治体・企業双方の資源循環の取組を支援しています。未利用資源の実態把握、出口を起点としたスキーム設計、関係者間の条件すり合わせ、活用可能な支援制度の当てはめまで、「逆解の発想」を実務に落とし込む段階から関与します。「何から手をつければよいか分からない」という段階でのご相談も歓迎します。まずはお気軽にお問い合わせください。
参考
第2回資源循環自治体フォーラム 資料ダウンロードページ(公益財団法人 廃棄物・3R研究財団)
循環経済に関する関係閣僚会議(第4回)令和8年4月21日 資料3
開催日:2026年8月6日/会場:大手町プレイス ホール&カンファレンス(東京都千代田区)
共催:環境省、環境省関東環境局、東京都、公益財団法人東京都環境公社、3R・資源循環推進フォーラム



