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フロン排出抑制法はどう変わる?「中間とりまとめ(案)」を機器管理者の実務目線で読み解く

2026年6月26日、中央環境審議会と産業構造審議会の合同会議(第4回)で、「フロン類のさらなる排出抑制に向けた対策の方向性について(中間とりまとめ)(案)」が審議されました。


代替フロン(HFCs)の排出量は3年連続で減少したものの、2030年目標との間には依然として大きな開きがあり、今回の案には、フロン排出抑制法の見直しを見据えた具体策が数多く盛り込まれています。


本記事では、業務用エアコンや冷蔵冷凍機器を保有する企業・自治体、すなわち「機器管理者」の実務にどのような影響があり得るのかという視点から、中間とりまとめ(案)のポイントを整理します。


フロン排出抑制法_改正の_要点
フロン排出抑制法_改正の_要点


1. 3年連続の排出減でも、2030年目標との差は約1,900万t-CO₂


エアコンや冷蔵冷凍機器の冷媒として使われるHFCsは、オゾン層こそ破壊しないものの、CO₂の数百〜数千倍の温室効果を持つ物質です。モントリオール議定書のキガリ改正により、先進国は2036年までに生産量・消費量を基準年比85%削減する義務を負っており、日本でもオゾン層保護法に基づく段階的削減が進められています(資料2-1 p.2)。


排出の現状を見ると、2024年のHFCs排出量は約2,750万t-CO₂と推計され、2022年以降3年連続で減少しています。しかし、地球温暖化対策計画(令和7年2月閣議決定)が掲げる2030年の目標値(約893万t-CO₂)との間には、なお約1,900万t-CO₂規模の乖離があります(同p.2)。目標達成には、これまでの延長線上ではない対策の強化が必要――これが今回の見直し議論の出発点です。


排出の内訳を見ると、約9割が冷媒用途からの排出で、機器のライフサイクル段階別では「使用時の漏えい」が約42%、「廃棄時の冷媒未回収」が約46%を占めます(同p.2)。さらに機器種類別とのクロス集計では、業務用エアコンと家庭用エアコンの廃棄時の未回収が全体の約4割で最大の排出源とされています(同p.3)。


HFCs排出量の内訳(2024年)
HFCs排出量の内訳(2024年)

※排出量の合計は資料の図表値(約2,760万t-CO₂)に基づきます。本文中の推計値は約2,750万t-CO₂(資料2-1 p.2)。


対策に成果が出ていないわけではありません。令和元年のフロン排出抑制法改正(冷媒未回収での機器廃棄に対する直接罰の導入など)により、業務用エアコン廃棄時の回収実施率は約41%から約53%へ、回収率(冷媒量ベース)は約31%から約40%へ改善し、建物解体時の回収率も約3〜5%から約16〜21%へと大きく伸びました(同p.4)。一方で、機器使用時の漏えいには課題が残ります。算定漏えい量報告制度で報告された漏えい量は、81万t-CO₂(平成27年)から164万t-CO₂(令和6年)へと約2倍に増加しており(同p.5)、使用時対策のさらなる強化が避けられない状況です。




2. 中間とりまとめ(案)の全体像――3つの柱と「冷媒サーキュラーエコノミー」


中間とりまとめ(案)は、今後講ずべき措置を大きく3つの柱で整理しています。

  1. 第一に「フロン類の使用の合理化」です。 HFCsの生産量・消費量の段階的削減、指定製品制度による脱フロン・低GWP化、低GWP冷媒の開発支援や自然冷媒機器の導入支援に加え、安全性の確保を大前提とした過渡的対策として、機器本体を更新せずより低GWPの冷媒に入れ替える「レトロフィット」の利用も選択肢に挙げられています(資料2-1 p.8)。

  2. 第二が「フロン類の管理の適正化」で、機器使用中の漏えい抑制、廃棄時の回収徹底、そして再生HFCsの需要増を見据えた対応が並びます。

  3. 第三が、施策の基盤となる基礎情報の整理です。


方向性として押さえておきたいのは、冷媒の低GWP化・ノンフロン化を進めるだけでなく、すでに市中にある膨大な既設機器からの使用時・廃棄時の排出抑制を「同時並行」で進めるという整理です(同p.6)。機器の入れ替えには相当の期間がかかる以上、既設機器の管理強化は避けて通れないという認識が示されています。


もう一つの注目点が、「冷媒サーキュラーエコノミー」という考え方の明記です。

キガリ改正に沿ってHFCsの新規生産・輸入が段階的に絞られていくと、低GWP冷媒への転換が直ちに難しい分野では、需給のミスマッチや冷媒価格の高騰といったリスクが懸念されます。そこで、使用中の漏えい回避と廃棄時回収の徹底によって回収量を増やし、回収した冷媒を再生・循環利用する「冷媒サーキュラーエコノミー」の確立が重要とされ、回収から再生に至る流通網の再構築を制度面から後押しする必要性が示されました(同p.7)。ただし、再生冷媒の利用が、本来更新されるべき古い機器の温存につながらないよう注意を払う、という留保も付されています(同p.7)。


■ 本資料のステータスに注意 今回の中間とりまとめは「案」の段階です(表紙の日付も「令和8年●月」と確定していません)。今後、とりまとめの確定を経て、フロン排出抑制法の改正を含む制度化の検討へ進むことが見込まれます。個々の措置も「検討すべき」という表現にとどまるものが中心で、内容は今後の議論で変わる可能性があります。最新の動向は、環境省・経済産業省の審議会ページや、意見募集が行われる場合はe-Govパブリック・コメントで確認できます。



3. 機器使用時――機器管理者に求められる4つの取組


業務用エアコン・冷蔵冷凍機器を保有する企業・自治体(機器管理者)にとって、実務への影響が最も大きいのがこのパートです。機器使用中の大気放出の抑制策として、次のような検討課題が挙げられています。


(1)漏えい量の多い事業者には「目標設定・計画策定」を

算定漏えい量の報告対象となるような漏えい量の多い機器管理者に対し、漏えい量の把握にとどまらず、中長期的な漏えい削減目標の設定や機器更新など、具体的かつ計画的な対策の実施を促すことが検討課題とされました(資料2-1 p.9)。報告対象事業者が固定化しているとの指摘もあり、「報告して終わり」から「削減の実行」へと軸足を移す方向性がうかがえます。



(2)「管理対象機器リスト」の作成

立入検査の際に、事業所の管理対象機器を網羅的に把握できていない事例があることを踏まえ、管理対象機器を一覧化し、冷媒の充塡・回収に係る証明書等と紐付けながら継続的に更新していく取組が挙げられました(同p.9)。老朽化機器や漏えいリスクの高い機器を把握しやすくなり、計画的な修理・更新につながるほか、行政の報告徴収や立入検査時に指導・助言へ活用することも想定されています。一方で、事業所ごとではなく事業者全体での一括作成・管理も可能とするなど、現場に過大な事務負担を強いない配慮も明記されています(同p.9)。



(3)老朽化機器の更新を漏えい対策の「中核」に

漏えいを補うサービス充塡(メンテナンス時の冷媒補充)の実施案件を機器の使用年数別に見ると、設置16〜20年が約36%、21〜34年が約26%と、設置16年以上の機器が6割超を占めています(同p.6 図6)。こうした実態を踏まえ、老朽化した機器を低GWP冷媒・自然冷媒を使用する機器へと計画的に更新していくことを、機器管理者に求められる漏えい対策の中核的な取組の一つとして位置づけることが検討課題とされました(同p.9)。機器更新には、省エネルギー性能の向上による温室効果ガス削減効果も期待されるとされています(同p.9)。



(4)IoT常時監視システムを定期点検に活用

技術進展を踏まえ、IoT技術を活用した常時監視システムを、法定の定期点検の一部項目の実施方法の一つとして活用できることを明確化し、点検業務の効率化につなげる方向性が示されました。導入費用の負担が普及の制約となり得ることから、初期導入段階における国の後押しも検討課題とされています(同p.9〜10)。


このほか、賃貸物件で冷媒配管が他のテナント区画や共用部に及ぶ場合に、漏えい箇所の特定・修理が円滑に行われるよう、関係者間の連携環境を整えることも挙げられています(同p.10)。




4. 機器廃棄・工事時――「発注段階」からの備えが問われる


廃棄時の冷媒回収については、機器を廃棄する側、すなわち発注者の実務に関わる論点が多く含まれています。


家庭用エアコンの位置づけ見直し

現行のフロン排出抑制法では、みだり放出の防止や表示の規定は業務用機器のみが対象で、家庭用エアコンは対象外です。しかし家庭用エアコンは保有台数が極めて多く、家電リサイクルプラントへ搬入されずに処理される事例も少なくないことから、廃棄時の未回収が主要な排出源の一つになっていると指摘されています。そこで、家庭用エアコンを法の対象として位置づけることを含めた対応の検討が明記されました(資料2-1 p.10〜11)。あわせて、廃棄物処理法等の改正法案で示されているスクラップヤードへの規制強化と連携した一体的な運用や、冷媒回収が必要な機器であることが分かる表示の在り方、引っ越し業者や地域住民同士の掲示板サービス運営会社など家庭用エアコンの譲渡・廃棄に接点を持つ事業者への周知も検討課題とされています(同p.11)。社宅・寮・事務所などで家庭用エアコンを保有する企業にとっても、廃棄ルートを再点検するきっかけになる論点です。



修繕・模様替え工事にも「事前確認」を

令和元年改正により解体工事に伴う回収は大きく改善した一方、建物の修繕・模様替え工事でも機器の撤去・更新は多く、実態として解体工事と同程度の排出リスクが存在するとされています。このため、一定規模の修繕・模様替え工事に伴う機器廃棄についても、フロン使用機器の有無を事前に確認し、必要な対応が行われるよう措置することが検討課題となりました(同p.11)。



回収の「質」を確保する仕組み

回収作業に必要な時間や通電環境が確保されないまま工事が進み、回収が不十分となる事例を踏まえ、工事の発注時に回収作業を内訳として明示するなど、対応の具体例を整理・公表すること(同p.11)、充塡回収作業に係る技術水準を確認できるルールを構築すること(同p.11〜12)、引取証明書と実機を照合可能とするルールを整えること(同p.12)が挙げられています。


企業の実務としては、機器更新や改修工事の見積・発注の段階で「冷媒回収」を明示的に織り込む運用を先取りしておくことが、将来の制度対応と排出削減の両面で有効といえるでしょう。




5. 再生冷媒の時代へ――いま進めたい3つの準備(フロン排出抑制法改正に向けて)


冷媒サーキュラーエコノミーの確立に向けては、回収冷媒の流通網を支える制度整備の論点が並びます。回収した冷媒を一定規模で集約し、成分分析を経て再生・破壊の判断につなげる「中間集約機能」は、現在は省令に基づき自治体の認定を受けた事業者が近い役割を担っていますが、認定の運用が自治体により異なり事業者が地域的に偏在していること、引取りに関する証明書の発行が求められておらず回収冷媒の追跡が困難なことが課題とされ、法制化を含めた制度上の措置の検討が明記されました(資料2-1 p.12)。また、混合冷媒から単一冷媒を分離して再生する行為を「フロン類の再生」として法に位置づけることや、再生業者が引き取ったフロンを自ら再生しなければならない義務の明確化も検討課題です(同p.13)。


機器管理者に直接関わるのは、既設機器へのサービス充塡における再生冷媒の活用です。今後の新品冷媒の供給制約を見据え、算定漏えい量報告・公表制度における情報提供の記載例の一つとして、サービス充塡用冷媒に係る再生冷媒の活用方針や実績を追加することが検討課題とされました(同p.13)。中長期的には、QRコード等のデジタル技術を活用した機器情報の管理や、冷媒回収を前提とした機器・建築物の設計といった論点も示されています(同p.14〜15)。


こうした流れを踏まえると、企業・自治体がいまから進めておきたい準備は、次の3点に整理できます。


  1. 機器台帳の整備と更新計画づくり 管理対象機器の一覧化は、制度対応であると同時に、老朽化機器の更新を省エネ・脱炭素投資として計画化する土台になります。フロン類の漏えいは自社のScope1排出そのものであり、脱炭素計画と切り離さず一体で管理することが効率的です。

  2. 工事・廃棄の発注プロセスへの組み込み 修繕・模様替えを含む工事の発注時に、フロン使用機器の確認、回収作業・通電環境の明示、証明書の管理までを標準フローとして組み込んでおくことが有効です。

  3. 再生冷媒の活用方針の検討 冷媒の調達リスクへの備えとサーキュラーエコノミーの両面から、自社のサービス充塡における再生冷媒の考え方を整理しておくことが、今後の情報開示にもつながります。


【図2】中間とりまとめ(案)が示す機器管理者の実務対応マップ
【図2】中間とりまとめ(案)が示す機器管理者の実務対応マップ


フロン対策は、点検・記録といった「守り」の管理業務から、機器更新や再生冷媒の活用を含む「脱炭素×資源循環」の経営課題へと広がりつつあります。


中間とりまとめ(案)は今後、取りまとめの確定と制度化の議論へ進む見通しです。自社の機器管理体制を早めに棚卸ししておくことが、制度改正への先手の備えになります。


続編:実務編もあわせてどうぞ(来週予定)

本記事では制度の動向を解説しました。「では、自社では具体的に何をすればよいのか」――機器の点検・記録から廃棄時の対応、老朽化機器の更新計画までをチェックリスト形式でまとめた続編【フロン排出抑制法 機器管理者の実務ガイド】を、来週公開予定です。実務への落とし込みは、ぜひそちらもあわせてご覧ください。



■ CYCLETANKのサービスのご案内 CYCLETANKでは、脱炭素計画支援の一環として、フロン類の算定漏えい量の把握や削減目標の設定から、老朽化機器の更新計画をScope1削減ロードマップへ組み込むところまでをご支援しています。 また、サーキュラーエコノミー支援では、再生冷媒の活用方針づくりや、機器廃棄時の適正な回収・処理体制の構築を含め、資源循環の視点から一体的にサポートいたします。フロン対策の体制整備をご検討の際は、お気軽にご相談ください。


【出典・参考資料】


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