フロン排出抑制法と見直し動向への実務対応(実務編)
- 坂本裕尚
- 11 分前
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自社で使っている業務用エアコンや冷蔵冷凍機器が何台あるか、即答できるでしょうか。フロン排出抑制法では、フロン類を冷媒として使うこれらの機器を保有する企業・自治体は「機器管理者」として、点検や記録、廃棄時の冷媒回収といった義務を負っています。そして2026年6月26日に審議された「フロン類のさらなる排出抑制に向けた対策の方向性について(中間とりまとめ)(案)」では、この機器管理者の役割をさらに一歩進める方向性が示されました。
本記事では、現行法で「いま」求められていることを確認したうえで、「これから」変わりそうなこと、そして今日から始められる準備を、実務の流れに沿って整理します。
■ この記事は「実務編」です 制度改正の背景や排出データの詳細は、動向を解説した前編【フロン排出抑制法 中間とりまとめ(案)解説】にまとめています。本記事は、その内容を踏まえて「機器管理者が具体的に何をすべきか」に焦点をあてた実務編です。前編をまだお読みでない方は、あわせてご覧ください。

1. まずは現フロン排出抑制法のおさらい――機器管理者に求められている5つのこと
フロン排出抑制法の対象となるのは、フロン類を冷媒として使用する業務用のエアコンや冷蔵冷凍機器(第一種特定製品)です。オフィスのパッケージエアコン、店舗の冷蔵ショーケース、工場や倉庫の冷凍設備など、業種を問わず幅広い設備が該当し、これらを保有する事業者は原則として「管理者」として法律上の役割を担います。現行法で求められている主な事項は、次の5つに整理できます。
対象機器の把握 どの拠点に、どのようなフロン使用機器があるかを押さえることが、すべての管理の出発点になります。
簡易点検 すべての管理者には、日常的な温度の確認や外観検査といった簡易な点検の実施が求められています。
定期点検 一定規模以上の業務用機器については、専門家による冷媒漏えい検査を実施する必要があります。
漏えい時の対応と記録 漏えいが確認された場合は速やかに漏えい箇所を特定し、修理を行うまでは原則として冷媒の充塡が禁止されています。点検や整備の内容は記録として残します。
漏えい量の報告 一定以上の漏えいが生じた場合には、国への算定漏えい量の報告が義務づけられています。
機器を廃棄するときのルールも重要です。廃棄時には、都道府県の登録を受けた充塡回収業者にフロン類の回収を依頼し、引取証明書などの書面を適切に管理する必要があります。廃棄時の回収率が長年4割弱で低迷していたことを背景に、令和元年の法改正では、冷媒を回収しないまま機器を廃棄する違反に対して直接罰が導入されており(令和2年4月施行)、廃棄の場面は特にコンプライアンス上の注意が必要な局面といえます。
なお、建物の解体工事については、フロン使用機器の有無を事前に確認する仕組みが設けられており、令和元年改正で規制が厳格化されています。
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2. データで見る、機器管理の「現在地」
なぜ今、機器管理者の役割が改めて注目されているのでしょうか。前編で詳しく見たとおり、代替フロン(HFCs)の排出量は3年連続で減少したものの、2030年目標とはなお約1,900万t-CO₂の開きがあり、その最大の排出源は業務用・家庭用エアコンの廃棄時の未回収(全体の約4割)です。
加えて、機器の使用時の漏えいはむしろ増加傾向にあり、算定漏えい量は81万t-CO₂(平成27年)から164万t-CO₂(令和6年)へと約2倍になっています。
ここで機器管理者の実務にとって見逃せないのが、「機器の使用年数」のデータです。漏えいを補うサービス充塡の実施案件を使用年数別に見ると、設置16〜20年の機器が約36%、21〜34年が約26%と、設置16年以上の機器が6割超を占めています。
つまり、「点検はしているのに漏えいが減らない」大きな要因は機器の老朽化にあり、点検・記録という従来の管理だけでは対応しきれない段階に入りつつある、というのが現在地です。この老朽化への対応こそが、後半で述べるアクションの軸になります。
3. 中間とりまとめ(案)が示す、機器管理者の「次の役割」
こうした状況を踏まえ、中間とりまとめ(案)では、機器使用時の対策として機器管理者に関わる検討課題が並びました。実務目線で押さえておきたいのは次の4点です。
(1)漏えい削減の目標設定・計画策定
漏えい量の多い機器管理者には、漏えい量の把握にとどまらず、中長期的な削減目標の設定や機器更新など、具体的かつ計画的な対策の実施を促すことが検討課題とされました。報告対象となる事業者が固定化しているとの指摘もあり、毎年の報告を「削減の実行」につなげる運用が問われることになりそうです。
(2)管理対象機器リストの作成
管理対象機器を一覧化し、冷媒の充塡・回収に係る証明書等と紐付けながら継続的に更新していく取組が挙げられました。リストは行政の立入検査への対応だけでなく、老朽化機器の把握や修理・更新の優先順位づけの土台になるとされており、後述の更新計画づくりに直結します。事業者全体での一括作成・管理も可能とするなど、事務負担への配慮も明記されています。
(3)老朽化機器の更新を対策の中核に
老朽化した機器を低GWP冷媒や自然冷媒を使う機器へ計画的に更新していくことを、漏えい対策の中核的な取組の一つとして位置づけることが検討課題とされました。第2章で見たとおり漏えいの主因は機器の老朽化にあり、更新には省エネルギー性能の向上による温室効果ガス削減効果も期待されるとされています。
(4)IoT常時監視システムの点検活用
IoT技術を活用した常時監視システムを、法定の定期点検の一部項目の実施方法の一つとして活用できることを明確化し、点検業務の効率化につなげる方向性が示されました。導入費用が普及の制約となり得るため、初期導入段階における国の後押しも検討課題とされています。このほか、賃貸物件で冷媒配管が共用部等に及ぶ場合の漏えい対応を円滑化する環境整備も挙げられています。
いずれも現時点では「検討すべき」とされた段階であり、今回の中間とりまとめも「案」の状態です。今後、とりまとめの確定を経て、フロン排出抑制法の改正を含む制度化の議論に進むことが見込まれるため、環境省・経済産業省の審議会ページや、意見募集が行われる場合はe-Govパブリック・コメントの動向を確認しておくと安心です。方向性を一枚にまとめると、次のようになります。

4. 廃棄・工事の場面で、発注者として押さえること
機器管理の総仕上げは、廃棄の場面です。前述のとおり、現行法でも登録充塡回収業者への回収依頼と書面管理が求められ、未回収での廃棄には直接罰が設けられています。中間とりまとめ(案)は、この廃棄・工事の場面をさらに手厚くする方向性を示しました。
まず、修繕・模様替え工事への対応です。解体工事に伴う回収は令和元年改正で大きく改善した一方、建物の修繕・模様替え工事でも機器の撤去・更新は多く、実態として解体工事と同程度の排出リスクがあるとされています。このため、一定規模の修繕・模様替え工事に伴う機器廃棄についても、フロン使用機器の有無を事前に確認する措置が検討課題となりました。
次に、回収の「質」の確保です。回収作業に必要な時間や通電環境が確保されないまま工事が進む事例を踏まえ、発注時に回収作業を内訳として明示するなどの対応例の整理・公表、充塡回収作業の技術水準を確認できるルール、引取証明書と実機を照合可能とするルールの整備が挙げられています。
また、現行法では対象外の家庭用エアコンについても、廃棄時の未回収が主要な排出源の一つになっているとして、法の対象に位置づけることを含めた検討が明記されました。廃棄物処理法等の改正法案で示されているスクラップヤード規制の強化との一体運用も挙げられています。冷媒回収が必要な機器であることが分かる表示の在り方や、引っ越し業者など機器の譲渡・廃棄に接点を持つ事業者への周知も検討課題です。社宅・寮・事務所などで家庭用エアコンを保有する企業にとっては、廃棄ルートを再点検するきっかけになる論点です。
発注者としての実務対応はシンプルです。機器更新・改修・解体いずれの場合も、見積・発注の段階で「フロン使用機器の有無の確認」と「冷媒回収作業(作業時間・通電環境を含む)」を明示的に織り込み、引取証明書まで確実に回収・保管する。この流れを社内の発注フローとして標準化しておけば、制度がどう具体化しても慌てずに対応できます。
5. 今日から始める5つのステップ
ここまでの内容を、機器管理者のアクションプランとして5つのステップに整理します。
ステップ1:機器の棚卸しと台帳化 拠点ごとのフロン使用機器を洗い出し、機器の種類・設置年・冷媒の情報を一覧にします。充塡・回収の証明書と紐付けておくと、中間とりまとめ(案)が示す「管理対象機器リスト」の方向性にもそのままつながります。
ステップ2:点検・記録運用の総点検 簡易点検・定期点検が漏れなく実施され、記録が残っているかを確認します。漏えい発見時に「修理してから充塡する」運用が現場に浸透しているかも重要なチェックポイントです。
ステップ3:老朽化機器の更新計画づくり 台帳をもとに設置年数の長い機器を洗い出し、更新の優先順位と時期を計画化します。フロン類の漏えいは自社のScope1排出そのものであり、省エネ投資・脱炭素計画と一体で検討することで、投資判断がしやすくなります。中間とりまとめ(案)でも、コスト面に課題のある自然冷媒機器の導入を国の補助で強力に後押しする方向が示されており、補助制度の動向確認も計画づくりの一部になります。
ステップ4:工事・廃棄の発注フロー整備 修繕・模様替えを含む工事の発注時に、フロン使用機器の確認と冷媒回収の要件を標準で組み込みます。引取証明書の保管までを一連のフローとして定めておきます。
ステップ5:再生冷媒への備え 中間とりまとめ(案)は、回収した冷媒を再生・循環利用する「冷媒サーキュラーエコノミー」の確立を打ち出し、サービス充塡における再生冷媒の活用方針・実績を報告制度の情報提供例に加えることも検討課題としています。冷媒の調達リスクへの備えとして、自社の再生冷媒活用の考え方を整理しておきましょう。
なお、これらのステップを実効的に回すうえで大切なのは、フロン管理の担当を「施設任せ・現場任せ」にせず、環境部門・総務部門を含めた社内の体制として位置づけることです。機器台帳の更新や工事発注時の確認を担当者個人のノウハウに頼ると、異動や退職で運用が途切れがちです。年に一度は台帳と点検・記録を見直す定例のタイミングを決めておくと、属人化を避けながら継続的な管理につながります。
フロンの管理は、点検と記録を積み重ねる地道な業務です。しかし、機器台帳と更新計画という土台があれば、それは脱炭素と資源循環につながる経営情報に変わります。本記事で挙げた5つのステップは、いずれも現行法の義務の延長線上にあり、制度改正を待たずに始められるものばかりです。見直し議論が本格化している今こそ、自社の管理体制を棚卸しする好機です。
CYCLETANKのサービスのご案内 「機器台帳をどう作ればよいか」 「更新計画をどこから手を付けるか」 CYCLETANKでは、脱炭素計画支援の一環として、フロン類の漏えい量の把握・削減目標の設定から、老朽化機器の更新計画をScope1削減ロードマップへ組み込むところまで伴走します。 また、サーキュラーエコノミー支援では、再生冷媒の活用方針づくりや、機器廃棄時の適正な回収・処理体制の構築を含め、資源循環の視点から一体的にサポートいたします。 フロン管理体制の整備をご検討の際は、お気軽にご相談ください。
出典(一次情報)



