小型家電リサイクル報告書から見えてくる静脈産業の変化 ― 認定事業者は「選ばれる時代」へ
2026年10月9日、経済産業省と環境省の審議会の合同会合が取りまとめた「小型家電リサイクル制度の施行状況の評価・検討に関する報告書」が公表されました。施行から約13年を迎えた小型家電リサイクル法を、制度全体にわたって点検した報告書です。
モバイルバッテリー等4品目の対象品目への追加は、前回記事で解説しました。本記事では視点を広げ、報告書から見えてくる静脈産業(廃棄物の処理やリサイクルを担う産業)の変化を読み解きます。評価のされ方、お金の流れ、リチウムイオン電池(LiB)への対応、リサイクルの質、回収ルートという5つの面で、認定事業者を取り巻く前提が動いています。共通するのは、認定を受けていることに加えて、何をどこまでやっているかで比べられる方向に進んでいることです。

この記事の読み方 ■ すべての方:第1〜3章で、報告書から見えてくる5つの変化を解説します ■ 認定事業者・処理業者の方:続けて第4章へ。選ばれるための準備を整理しています ■ 自治体・企業の方:続けて第5章へ。委託先を選ぶときの確認ポイントをまとめています ■ 今後のスケジュールは、最後の「まとめ」にあります |
1. 報告書から見えてくる5つの変化(静脈産業の変化)
小型家電リサイクル法は、国の認定を受けた事業者(認定事業者)が広域的に使用済小型家電を集め、リサイクルする仕組みです。施行から13年で、担い手と回収体制は全国に広がりました。2026年9月時点で認定事業者は60者にのぼり、すべての都道府県に複数の認定事業者がいます。小型家電の回収を実施中または調整中の市町村は、2025年6月時点で市町村数の約86%、人口では約95%に達しました(報告書p.4)。
一方、回収量は令和2年度の約10.2万トンをピークに減少し、令和6年度は約8.7万トンと、目標の年14万トンに届いていません(p.6)。報告書はこの現状を踏まえ、回収量の増加、認定事業者の効率的なリサイクル、新たな課題への対応を柱に方策を提言しています(p.12)。
報告書を静脈産業の目線で読み直すと、次の5つの変化が見えてきます。

2. 変化①②:評価のされ方とお金の流れ
① 「認定の有無」から「取組の中身」へ
報告書は、認定事業者のあいだで取組に差が出ていることを指摘しています(p.17)。
認定取得後に小型家電リサイクルを実施していない事業者:約1割
全制度対象品目ではなく、特定対象品目(パソコン、スマホ等)のみを扱う事業者:約4割
そのうえで、2つを提言しています(p.17)。
一つは取組評価で、市町村からの引取実績の有無や全制度対象品目の取扱などで取組を評価し、結果を国のホームページ等で公表します。
もう一つは実績公表で、認定事業者の同意の上で、個社ごとの回収実績、再資源化実績、個人情報の消去方法等を公表します。自治体や事業者が地域の認定事業者を探す際の一助とするのがねらいです。
法律上も、認定計画に従って再資源化事業を実施していないときは、主務大臣が認定を取り消すことができます。報告書は取消しには触れていませんが、認定を持っているだけの状態は、これまで以上に問われやすくなると考えられます。
② 逆有償が半数を超え、効率化が問われる
制度開始当初、市町村から認定事業者への引渡しは、多くが市町村による売却(有償)でした(p.11)。いまは、市町村が処理費を払って引き渡す「逆有償」が主流です。

逆有償の割合は平成25年度の0.3%から令和3年度に67.9%まで上がり、令和6年度も54.9%と半数を超えています(p.14)。パソコンや携帯電話などの特定対象品目に限ると、令和6年度は21.1%です(p.11)。背景として報告書は、プラスチック残さの処分コストの上昇、LiB対策のコスト、資源価格の変動を挙げています(p.9〜11)。
報告書が示す処方箋は効率化です。リサイクルが効率化すれば採算性が上がり、回収できる金属の種類と量も増える。それが引取価格の上昇や処理料金の値下げとして市町村に還元され、回収量の増加にもつながる、という構図です(p.13)。評価・公表の提言は、取組の中身を見えるようにすることで、この好循環を後押しする仕掛けと読めます。
3. 変化③④⑤:事業の前提が変わる
③ LiBへの対応が「前提」になる
認定事業者での出火は2020年度の50件から2024年度は312件に増え、2024年度は火花や発煙を含めると4,348件にのぼりました(p.10)。また報告書は、加熱式たばこデバイス、電子たばこデバイス、モバイルバッテリー、ポータブル電源の4品目を対象品目に追加すべきとしています(p.18)。いずれもリチウム蓄電池を使うことが多い製品です。
認定事業者にとって大きいのは、引取義務との関係です。法第12条は、収集区域内の市町村から引取りを求められた使用済小型電子機器等を、正当な理由がない限り引き取らなければならないと定めています。政令改正で4品目が加われば、4品目の引取りを求められる場面も出てくると読めます。正当な理由は、天災や適正な保管への支障、通常の取引条件と著しく異なる条件など4つに限定されています(施行規則第14条)。報告書は、解体が難しい場合はLiBの再資源化が可能な事業者と連携するよう求めています(p.18)。
④ リサイクルは「量」から「質」へ
報告書は、リサイクルの高度化を3つの方向で求めています(p.16)。
プラスチック:認定事業者が選別したプラスチックの約6割は熱回収されています。現行の認定基準は熱回収も認めていますが(施行規則第4条第4号)、報告書はプラスチック資源循環促進法の施行や自動車向け再生プラスチックの需要を背景に、再資源化を推進すべきとしています
重要鉱物:半導体基板やLiBに含まれるパラジウム、ニッケル、コバルト、リチウム等の回収に向けた選別の高度化
リユース:環境省が令和7年度に策定した「リユース等の促進に関するロードマップ」に基づくリユースの促進
報告書は冒頭で、再生材の質と量の確保が産業競争力と経済安全保障に直結すると強調し、LiBに使われる鉱物資源が経済安全保障推進法の特定重要物資に指定されていることにも触れています(p.2)。
⑤ 回収ルートが多様化し、競争環境が変わる
令和6年度の回収量のうち、市町村経由は約5.4万トン、認定事業者が市町村を介さずに集めた直接回収は約3.3万トンでした(p.7)。直接回収の内訳は家電量販店が約6割を占め、宅配便と事業所がそれぞれ14%、拠点回収が11%です(p.6)。
ここに新たなルートが加わります。改正資源有効利用促進法では、自主回収・再資源化の義務を負う製造事業者等のうち高い回収目標などを掲げる事業者が、廃棄物処理法の特例を受けられる認定制度が2026年4月に始まりました。高度化法の認定制度も始まっています(p.11)。報告書は、これらのルートで回収された小型家電も重複計上を避けたうえで合算し、回収量目標の達成を目指すとしています(p.19)。

一方で、不適正なルートには規制がかかります。2026年6月には、スクラップヤードの許可制や、一部の物品の輸出に環境大臣の確認を求める措置を盛り込んだ廃棄物処理法等の改正法が成立しました(p.15)。リチウムイオン電池総合対策パッケージも、この規制を公正な競争環境の整備と位置づけています(施策22)。回収ルートが増えるほど、排出する側は出し先を選びやすくなり、認定事業者はほかのルートと比べられる場面が増えると考えられます。
5つの変化を、立場別に整理すると
ここまでの5つの変化を、委託する側と受託する側それぞれの目線で整理すると、表1のようになります。第4章と第5章では、立場ごとに詳しく見ていきます。
表1 5つの変化と、委託する側が見るポイント・認定事業者の準備
変化 | 委託する側が見るポイント | 認定事業者がいま準備すること |
① 評価 | 市町村からの引取実績、取扱品目、公表される実績 | 回収・再資源化の実績を集計し、開示に備える |
② お金 | 見積の内訳(運賃・処理費) | 効率化の計画と、見積の内訳の明示 |
③ LiB | 電池の取外し、検知・消火設備、4品目の受入 | 受入方針と発火対策、LiB再資源化先の確保 |
④ 質 | プラスチック・重要鉱物・リユース、個人情報の消去方法 | 選別の高度化、消去方法の文書化 |
⑤ ルート | 回収窓口の使いやすさ | 直接回収の拡大、自治体・メーカーとの連携 |
4. 【処理業者向け】選ばれる認定事業者へ、いま準備すること
ここからは、認定事業者と認定取得を検討する処理業者の方に向けて、表1の右の列を具体的に見ていきます。
実績を「出せる」状態にする
認定事業者はすでに、毎年6月30日までに、引き取った使用済小型家電の数量や、再資源化で得た資源の種類ごとの重量などを主務大臣に報告しています(施行規則第15条)。公表が提言された実績は、こうしたデータが土台になると考えられます。個社データの公表は同意が前提ですが、開示に応じるかどうか自体が、委託する側の判断材料になる可能性があります。
4品目と全品目の受入方針を決める
評価の観点として例示された「市町村からの引取実績」と「全制度対象品目の取扱」(p.17)は、4品目の追加とあわせて方針を固めておきたい点です。特定対象品目のみを扱っている場合は、取扱範囲の考え方を説明できるようにしておきましょう。
設備投資は、支援策と変更認定をセットで考える
報告書は、国がLiBの検知機や発煙・発火の検知消火システムの導入を支援すべきとしています(p.18)。リチウムイオン電池総合対策パッケージにも、民間の廃棄物処理施設へのLiB高度選別機や発火検知と連動するシステムの導入支援(施策20)、LiBの再資源化に係る設備導入の支援(施策22)が盛り込まれています。要件や時期は各事業の公募要領で確認が必要です。また、処分施設の設備を変更する場合は、保管施設に係るものを除き、変更の認定が必要になる場合があります(法第11条第1項、施行規則第10条)。
個人情報の消去方法を説明できるようにする
個人情報の漏えい防止は、すでに認定基準の一つです(施行規則第4条第5号)。公表の提言を受け、消去の方法を外部に説明できる形にしておくと安心です。GIGAスクール構想で配備された端末の一斉廃棄も、報告書が注視すべき点に挙げています(p.2)。
処理業者の方へ ― 選ばれる認定事業者への準備を支援します CYCLETANKは、静脈産業を取り巻く制度や環境市場の変化を踏まえ、選ばれる認定事業者を目指す処理業者の皆さまを支援しています。 ■ 最新動向の共有:小型家電リサイクル制度の見直し、リチウムイオン電池対策の支援制度、再生材・重要鉱物の需要など、事業に関わる情報をお伝えします ■ 事業計画づくり:認定取得や設備投資に向けた計画を一緒に整理します ■ 火災予防:LiBの受入体制と火災予防の仕組みづくりを支援します |
5. 【自治体・企業向け】委託先を選ぶときの確認ポイント
委託する側の自治体・企業の方に向けて、表1の中央の列で挙げたポイントに加え、法令上の位置づけと実務上の注意点を整理します。
市町村には分別収集した小型家電を、事業者には事業活動から出た使用済小型家電を、認定事業者などに引き渡す努力義務があります(法第5条、第7条)
認定事業者は、収集区域内の市町村から引取りを求められたら、正当な理由がない限り引き取る義務を負います(法第12条)
見積を比べる際は、運賃の扱いをそろえましょう。取引単価には運賃を含むもの、含まないもの、不明なものが混在しています(p.11 図8注記)
企業が産業廃棄物として出す場合も、認定事業者は認定の範囲であれば廃棄物処理業の許可がなくても受け入れられます(法第13条)。委託契約書やマニフェストの扱いは委託先と確認しましょう
パソコンやスマートフォンは個人情報の消去方法を確認し、LiB使用製品を含む場合はその旨を伝えましょう。総合対策パッケージには、産業廃棄物の委託契約でLiB含有の有無を明確にする仕組みづくりも盛り込まれています(施策15)
自治体・企業の方へ ― 処理委託先の監査に同行・代行します 委託した後も、委託先で適正に処理されているかを確かめることは、委託する側の大切な責任です。CYCLETANKは、使用済小型家電をはじめとする廃棄物の処理委託先について、監査(実地確認)と評価を支援しています。 ■ 同行:ご担当者の監査に同行し、現場で確認すべきポイントを助言します ■ 代行:ご担当者に代わって監査を行い、結果を報告書にまとめます ■ 評価:LiBの発火対策や個人情報の消去方法など、表1の観点で委託先を評価し、委託先の選定や契約の見直しにつなげます |
まとめ ― 今後のスケジュールと静脈産業のこれから
現時点で見えている今後の流れは、次のとおりです。
表2 今後のスケジュール
項目 | 内容 | 状況 |
4品目の追加 | 政令改正 | 時期は報告書に記載なし※ |
回収量目標 | 年14万トンを据え置き、目標年度を令和11年度に。新たな認定制度のルートも合算 | 基本方針の改正で対応 |
取組評価・実績公表 | 国のホームページ等で公表 | 方法・時期は未定 |
次回の制度評価 | 施行状況の評価・検討 | 令和12年度を目途 |
※第2回WGの議事録では、事務局が品目追加などを行う場合は令和8年度中に改正する予定と説明していました(令和7年度時点)。
5つの変化は別々の話に見えて、根は同じです。認定を受けているかどうかだけでなく、何をどこまでやっているかが見え、比べられるようになる。今回の報告書から見えてくる静脈産業の変化を、私たちはそのように受け止めています。
報告書は、再生材の質と量の確保を産業競争力や経済安全保障と結びつけています。静脈産業は、廃棄物を適正に処理する産業から、資源を供給する産業へと役割を広げつつあると私たちは考えています。評価や公表は手間が増える話に見えますが、効率化や安全対策、リサイクルの質に地道に投資してきた事業者にとっては、その取組が正当に評価される機会になるはずです。
CYCLETANKは、委託する側と受託する側の双方を支援する立場から、この変化を前向きな競争につなげるお手伝いをしていきます。
参考資料



